第2章 地雨
少し避けたパスタをフォークでクルクルと巻きとっていく。サーモンのピンクとクリームの白が程よく混ざり合うのを、ゆっくりと口の中へ放り込む。
生クリームの優しい味に、サーモンの少し塩気のある味が絶妙なバランスでとても美味しい。
美味しい、はずなのにな。
また窓を見つめれば、雨粒が大きな粒と合わさって流れて儚い水の線を描く。
パスタの味は変わらないはずなのに、一年前食べた味がどうにも忘れられない。
あの時のパスタは本当に美味しかった。
今まで食べた中で、あんなに美味しいと感じたものはないくらい。
それを思い出しながら、1口、2口とパスタを運んでいく。
無心でパスタを巻き取り続けるうちにふと向かい側を見れば、冷めてしまったミートソースのパスタが寂しそうにしている。
湯気をたてていたのに、すっかり冷めてしまってトマトの香りが弱くなっていた。
カチャンとスプーンとフォークを置き、じっとお皿を見つめる。いくら見つめた所で、パスタが減るわけでも待ち人が来るわけでもない。
そんな事を思えば思うほどに、悲しくて虚しくてそれでいて後悔ばかりしていた。
どうしてあの時と自分を責めてみても、時間は戻るわけもない。時間はただ過ぎていくだけで、それと比例して冷めていくパスタがどことなく切ない。
見つめる先に望んだものがなくて、肩を落とす雨の日を何回繰り返しているんだろう。
1ヶ月か2ヶ月か、不毛なことをしているのはわかっているけれど諦めきれないのもまた確かだ。
「お飲み物お持ちしましょうか」
思考の海からすくい上げられたみたいに、現実へ戻す声は、よくできた定員さんだ。
「お願い...します」
うつむきながらそう言えば、かしこまりましたといって空になったお皿を下げていく。
でも、今日は少しだけ違った。