第16章 お前だけに愛を囁く(明智光秀/甘め)
午前中は針子部屋で仕事をして、午後からは台所番のお手伝いをしていた。
料理は得意じゃないんだけれど、勉強のためにとお願いして、時間がある時に手伝わせてもらっていた。
「お砂糖が足りないわ、そっちを見て」
「買い置きが確か…」
「あらっ、もうないみたいだわ」
料理をする女中さんの話が聞こえてきて、私がお遣いに行くことにした。
「迦羅様に買いに行かせるなんて…」
「いいんです、お遣いくらいさせて下さい」
皆私に気を遣うんだけれど、本当のところ私は身分もないし、皆と同じようにここで暮らしたいし。出来ることは何でもしたい。
「行ってきますね」
台所をあとにして、城門を出た。
朝からの雪は止んで、薄く積もっていた雪も陽射しで溶けている。
まだ寒さはあるけれど、お遣いに問題はなさそう。
城下へ続く坂道を下っていると突然背後から声を掛けられた。
「おいお前」
あまりにビックリした拍子に、足を滑らせ転ぶ寸前ー
背後から伸びた大きな腕に支えられて、難を逃れた。
「はぁー…ビックリした」
安心して溜め息をつく。
「これだからお前は面白い」
クックと笑うその声に振り返ると、やはり光秀さんだった。
「な、面白いじゃないです!危ないじゃないですか!」
思わず声が大きくなってしまう。
「勝手に転びそうになったんだろう?」
「驚かすからですよ!」
どうもこの人は苦手。
私が単純なのをわかってて馬鹿にしてくるんだから。
「何かご用なんですか?」
ぶっきらぼうに用件を聞こうとした。
「砂糖を買いに行くと聞いたが、平気なのか?」
「お砂糖くらい私だって買えますよ」
「…やはりお前は頭がスカスカのようだ」
またそうやって馬鹿にして。もう話をする気にならなくて、何か言いたげなのを遮り、城下へ向かった。
お砂糖買ったはいいけど…まさかひとつが五キロとは。
両手でしっかりと抱える。持てるけど、結構くるな。
城への道を歩いていると、橋の袂に光秀さんが居る。
「だから言っただろう?平気なのかと」
まさか、わざわざここで待っててくれたの?
いやいや、また気まぐれで声を掛けているだけに違いない。
「こうして持てますから、大丈夫です」
ツンと答えて通り過ぎようとした時、私の手から砂糖が取り上げられた。
「明日、筋肉痛になられても面倒だ」
軽々と砂糖を抱え、可笑しそうに笑った。