第16章 お前だけに愛を囁く(明智光秀/甘め)
冬も本番。
今朝から降り続いている雪に、城の庭も城下も、薄っすらと白い世界に包まれていた。
廊下の雑巾掛けをしながら、頬を刺すような冷気にぷるっと震える。でも、ほのかな陽射しに照らされながら落ちていく雪も綺麗で、嫌いじゃないかな。
雑巾掛けを終えた頃には、もう手がジンジンして、あかぎれも出来てしまっていた。用具を片付けようとしていた時、廊下の向こうから秀吉さんと光秀さんがやって来た。
「おはようございます。外、大丈夫でしたか?」
積もっている雪は大したことはないけれど、足元の悪くて寒い中、城へ通って来るのも大変だと思った。
「ああ、大丈夫だ。それより…」
秀吉さんが私の手をとり、ほんの少し血が滲んでいるのを見て溜め息をつく。
「この寒い中、あかぎれ作ってまで掃除しなくてもいいだろう」
「でも、寒いからって掃除しない理由にはならないから」
大丈夫!と笑顔で答える。
「しっかり者なんだな、迦羅は」
頭をポンポンとしながら秀吉さんは優しく微笑む。
隣で見ていた光秀さんは相変わらずのニヤリ顔で
「そんな傷、栄誉の勲章にもならん」
と鼻で笑った。
…まったく朝から嫌な人に会うなんて。
光秀さんにはいつだって良いことを言われる期待なんかしてない。
ひねくれた性格は嫌と言う程にわかってるし。
去っていく二人を見送ったあと、掃除用具を片付け部屋へと戻る。
前に家康からもらった軟膏を、あかぎれた手に丁寧に塗る。
本当に良く効く軟膏で、少しのあかぎれなんかすぐに治っちゃう。
秀吉さんはいつも、女の子なんだからって心配してくれるけど。
光秀さんもそのくらい心配してくれてもいいのに。
ん、あれ…?
何で光秀さんが出てきたんだろう。
あの人が私の心配なんて、明日地球が滅亡するとしてもあり得ないでしょうに。
無駄なことを考えるのはやめようと、ぶんぶんと頭を振った。