第15章 晒された本心(徳川家康/甘め)
「宴のことは迦羅には内緒だぞ」
昨日何故か秀吉さんにそう言われたから、迦羅には黙っている。日中は二人で過ごせと、俺の残っている仕事を引き受けてくれた。
本当、お節介な人達に囲まれてる。
だけど、その人達のおかげで、こうして迦羅と過ごせる時間が出来ているのも事実。少しは感謝しなくちゃね。
色々と考えて黙っていると、
「さっきからどうしたの?」
心配そうに横から迦羅が俺の顔を覗き込む。
「別に、気にしなくていい。ちゃんと前見て歩いて」
いつも通り素っ気なく答えてしまった。
迦羅と出逢ってから、だいぶ角が丸くなったと思ったけど、どうやらまだまだ直すのは難しいらしい。
ふと、俺の手に温もりが伝わった。
迦羅の小さな手が、俺の手をきゅっと握っていた。
「はぐれると…困るから」
恥ずかしそうに、取って付けたような言い訳をする迦羅が堪らなく可愛い。
俺がこんなに素直じゃないのに…
あんたはすべてを受け入れてくれてるんだね。
愛されてるって実感が、何気ない所で感じられるんだ。
この日、陽の高いうちは二人で城下を歩いた。
安土は遠方からもやってくる露店商も多く、珍しいものもたくさんある。何か見つける度に足を止め、商人と言葉を交わしていく迦羅の姿を見ているとあっという間に時間が過ぎていく。
でも、嫌じゃない。
こういう何でもないことも、俺達の幸せなんだと思うから。
馴染みの茶屋で一休みしていると思い出したように迦羅が言った。
「そう言えば、今日はお仕事なかったの?休みだとは聞いてなかったから…」
確かに仕事はあったけど、秀吉さんにお願いしてきたし。
「休みにしたの。悪い?」
「ううん…ありがとう」
お礼を言いながら照れくさそうに笑われると、また、幸せな気分が胸を包んだ。
俺はいつもきちんと言えてないけど、本当にあんたのすべてに心が癒されてる。毎日が、満ち足りてる。
今日で一年か。
来年も再来年も…俺はいつまでだってあんたのそばに居たい。
そして、そばに居てほしい。
「陽が暮れて来た。そらそろ行くよ」
立ち上がって伸ばした手に、迦羅はこの時間を名残惜しそうにしながら、その手を乗せた。
「城で皆が待ってる」
「えっ?」