第12章 侵略する刃(徳川家康/微甘)
俺の予想通り、佐助という男は戦場でも迦羅の前に現れた。
その装束…上杉家の抱える忍びか。
この佐助にも、そして迦羅にも、思うままに疑念をぶつけた。本当は違うってわかってる。
迦羅なりに何か事情があることはわかってる。
それでも…違うっていう確信が欲しかった。
「徳川家康様といえど、その言葉はいささか許せませんね」
そう言う佐助の目は真っ直ぐに俺を見据えている。
迦羅を疑う言葉に納得がいかないようだ。
俺だって投げかける自分の言葉に困惑してる。
でも、はいそうですかと黙って帰すわけにはいかない。
静かに刀を抜き佐助に向ける。
佐助は表情を崩さず微動だにしない。
次の瞬間ー
佐助に向ける切っ先の前に迦羅が立ちはだかった。
「そんなこと、させない」
声が少し震えているが、淀みのない目。
「家康が私を疑うのは構わない。でも、佐助くんは大切な友人なの。刀を向けるなんて、許さない!」
こんなにも、怒りと悲しみが入り混じったような意志の強い目、今まで迦羅は一度も見せたことがなかった。
その姿を見た途端に、やはり俺が間違っていたと、確信した。
その安堵からか、無意識に刀を下ろす。
二人を睨みつけていた目をふっと伏せる。
「佐助くん、ごめんね。私が心配をかけるばっかりに…」
涙声の迦羅の声を聞くと、迦羅は俺の横を掠めて走り去って行った。
「家康様。確かに俺はあなたの敵、上杉軍の人間です」
残された佐助がゆっくりと話し始める。
「ですが迦羅さんは、先程のような疑いをかけられるべき人ではありません」
俺は何も答えないが、佐助は続ける。
「安土で共に暮らし、迦羅さんがどんな人かわかっているはずです。迦羅さんは間違いなく、織田の人間です」
何の迷いなくきっぱりとそう告げる佐助の言葉に、安心していた。
顔を上げるとすでに佐助の姿はなかった。
そして、あんな言葉を浴びせてしまった迦羅のことが頭の中を巡り、俺は駆け出した。