第12章 侵略する刃(徳川家康/微甘)
そして戦が始まったー。
私は看護兵に混じり、手負いの兵達の手当てを手伝っている。
熾烈な戦いで傷を負う兵は多く、余計なことを考える暇はない。
戦場に来たからには、私は私の出来ることを精一杯やるだけだから。
お互いの軍は一進一退を繰り返し、その夜は互いに一度軍を引きあげた。本陣では信長様を筆頭に、明日に向け策を練っている。
私は天幕に戻ると、改めて戦を実感した。
もちろん、織田軍に勝ってほしい。でも、敵軍にいる佐助くんも無事でいてほしい。
どちらも傷付かない戦なんてないのはわかってるはずなのに…
頭がモヤモヤしてきて、外の空気を吸いに天幕から出た時、背後の暗闇から佐助くんの声がした。
あたりに人が居ないことを確認して、足早に声のするほうに向かった。
「良かった、佐助くんも無事だったんだね」
「迦羅さんこそ。でもまさか此処に居るとは思わなかった」
心配そうに佐助くんが言う。
「うん、まぁ色々あって」
「また信長様に連れて来られー」
佐助くんがそこまで言うと、私の背後から誰かがやってきた。
足音に気付いて振り返ると…
「やっぱりね。来ると思った」
鋭い目つきで佐助くんを見ているのは、家康。
「敵陣にのこのこやって来るとはね」
戦の最中ですら見せないような冷たい目に、ぞっとする。
そしてその目を私に向ける。
「あんた、何が目的?」
「目的って…」
意味がわからず答えに困る。
でも、家康の言いたいことは何となくわかる気がする。
敵軍の忍びである佐助くんと、織田軍の人間である私…互いが戦をしている最中に何故こうして人目を忍んでこそこそと会っているのかと。
何からどう説明したらいいか、わからない。
「俺と迦羅さんは、友人です」
口を開いたのは佐助くんだった。
「それで誤魔化してるつもりなわけ」
「事実ですから。戦場にまで来ているとなれば、心配するのは当然のことでしょう」
佐助くんは家康の目に怯むことなく、いつもの無表情で返す。
「あんたも本当は敵軍の人間なんじゃないの」
極めて強い疑いの目を向けられる。
「私はっ…そんなんじゃ!」
「安土城に潜り込んでいいように内情を探って、満足?」
一方的な家康の言葉に、言いようのない悔しさが溢れ出す。
「…徳川家康様といえど、その言葉はいささか許せませんね」
佐助くんの目の奥が鋭さを増した。