第12章 侵略する刃(徳川家康/微甘)
公務が思った以上に長引いてしまい、迦羅の部屋へ行ってみた時には既に城下に出たあとだったみたい。
待っててくれてもいいのに。
まだ帰って来ないようだし、買い込むつもりでいたから、きっと荷物を持ち歩くのは大変なはず。
遅くなったけど、行ってあげよう。
迦羅が行く店はわかってる。
寄り道してなきゃ途中で会うだろうし。
城下を歩いていると、迦羅の姿を見つける。
路地の向こうに目をやり、誰かと話しているのがわかる。
すると路地に引っ張り込まれていった。
まさか人さらいか何かかと慌ててその後を追った。
路地をさらに入って行った時に、迦羅の声が聞こえた。
思わず壁際で足を止め、隠れる。
「佐助くん、何かあったの?」
佐助?
迦羅の知り合いのようだけど…誰なの?
「実は、そう遠くないうちに戦があるかもしれない」
「えっ、戦が?」
「ああ。言いにくいけど…恐らく迦羅さんのいる織田軍と、俺のいる上杉・武田軍がぶつかりそうなんだ」
「そ、そんな…」
その会話を聞きながら様々な疑問が湧き上がる。
佐助という男は上杉・武田軍の人間…
そして戦が始まるだろうという話を迦羅に伝えている。
何故迦羅が敵軍の人間と親しくしているの?
迦羅は本当は…何者なの?
妙な胸騒ぎを感じるけど、佐助という男は、戦があるかもしれないと言っただけだった。
迦羅に織田軍の情報を聞き出すでもなく。
「戦が始まれば、どうなるかわからない。くれぐれも気を付けて」
「うん…わかった」
「心配いらない。立場は敵同士だけど、俺は迦羅さんの味方だから」
敵なのに、味方?
一体迦羅はこの男とどういう関係なの?
本当は迦羅は…何か目的があって安土にいるの?
偶然にも信長様の命を助け、それで安土に来たはずなのに。
それも、本当は偽りだったの?
いや、そんなはずがないー。
俺の心の中は、信じている気持ちと共に意図せず迦羅への疑念が沸き起こり、複雑な鼓動を上げていた。