第12章 侵略する刃(徳川家康/微甘)
午後になって、私はいくつか反物を仕入れるため、お世話になっている呉服屋さんに来ていた。新しいものが入っていて、目移りしてしまう。
本当は、公務が終わったあと、付き合ってあげるって家康が言ってくれたんだけれど、長引いているみたい。
荷物持ちさせるのも悪いし、あとどの位で終わるのかもわからなかったから、少しだけ待ったけれど一人で来てしまった。
たくさんの品物を前にひとしきり悩んだあと、いくつかの反物を買って、城へ戻るところだった。
とある路地に差し掛かった時、薄暗い路地の奥から突然声を掛けられる。
「迦羅さん、こっちへ」
名を呼ばれて目をこらすと、薄暗い中に佐助くんの姿が見えた。
「あ、佐助くん!」
「さっき城に行ってみたんだけど、居なかったから」
また私の部屋の天井裏から忍び込んだのだろう。
何度も忍び込んで良く見つからないものだと感心してしまう。
今日の佐助くんは忍び装束ではないものの、あまり人目につきたくないのか、路地のそのまた奥へと私を引っ張り込んだ。