第11章 今宵桜の木の下で(織田信長/甘め)
ー翌日。
晴天に恵まれ、花はまさに満開。
絶好の花見日和となった。
何だかんだと言っていた皆も、準備を手伝っている。
庭の一際大きな桜の木の下に赤絨毯が敷かれ、酒や肴、膳が次々と運ばれてくる。陽が上り詰めた頃、準備が整ったところで、花見が始まった。
「ところで、迦羅様はいらっしゃらないのですか?」
姿が見えないことに気付いた三成がキョロキョロしている。
「いや、そのうちに来る」
女中達に命じて迦羅の身支度をさせている。
今日のために、迦羅に似合うであろう春色の着物を新調させたのだ。さて、どのようになるか…。
皆がわいわいと酒を呑み進めていると、支度を終えた迦羅が花見の席にやってきた。
「ほう…」
「いや、変わるもんだな」
光秀と政宗が声をあげ、俺はその姿に気付く。
艶やかだが派手過ぎず、どこか控えめな着物が良く似合っている。普段とは違い、結いあげた髪も。
しばし黙って見惚れてしまった。
あらたまった格好に、迦羅も少し恥ずかしそうにしている。
「やはり似合うな。来い」
隣へ呼び寄せ、共に酒を呑む。
皆と他愛もない話をして呑み、気持ち良くなってきた頃ー。
ふと、皆が迦羅へと視線を向けているようだ。
「そういう格好も似合うもんだな」
照れくさそうに秀吉が言う。
「本当に可憐な花のようです」
微笑む三成も迦羅に魅入っている。
「馬子にも衣装って感じ」
珍しく家康まで目元を赤くしている。
「なかなか見事な変わりようだ」
光秀が薄ら笑う。
「相手が信長様でなきゃ、かっさらうのにな」
政宗は悪びれもせずに邪言をする。
皆が迦羅を良く思っているのは俺も知っている。
俺にとっても嬉しいことだ。
だが何だ、この沸々とした気持ちは。
隣を見ると、やけに美しい色香を纏った迦羅が、照れながらも皆と楽しそうに談笑している。
そんな迦羅をじっと見つめていると
視線に気付いた迦羅は俺を見る。
「どうかしましたか?」
酒の入った顔はほんのり薄紅で、あまりにも美しく愛らしい。堪らず咄嗟にその手をとり、花見の輪から連れ出した。
「どうしたんでしょうか?」
「そりゃあんまり俺達が迦羅を褒めたからな」
「…やきもち、でしょ」