第11章 今宵桜の木の下で(織田信長/甘め)
花見の席から離れた場所までやってきた俺は、冷静さを取り戻し、捕まえていた手を離す。
俺の様子を見兼ねた迦羅が口を開いた。
「急にどうしたんですか?」
どうと答えたら良いかわからん。
俺がこんなにも愛しいと思うたった一人の女を、皆が好いているのがわかる。
ー俺は、嫉妬している。
背を向けたままでいる俺の羽織をそっと掴み
「…こっちを向いて下さい」
呟くように迦羅が言う。
しかし今、俺はどんな顔をしている?
応えられずにいると、迦羅は俺の前に回り込み、そして顔を覗き込む。
「ふふ、赤いですよ?」
茶化すように笑い、頬に手を添えられる。
この温もりが堪らなく愛おしい。
誰にわけ与えることなく、俺のものにしたい。
「何も言ってくれないんですね」
不意にその笑顔に雲がかかった。
刹那のうちに胸が鳴る。
頭で考えたかどうかはわからない。
俺の両手は迦羅の頬を挟み、引き寄せる。
唇が触れるかどうかの距離で、一旦止め、囁く。
「俺は貴様を、誰にもくれてやる気はない」
再び雲が晴れた笑顔を見た時、迦羅の両手が首に回り、そのまま自ら俺に口付けた。
僅かな距離を空けて唇を離されると、
「誰かにくれてやると言われても、私が信長様を離しません」
強い意志を含んだ柔らかな声が、胸の奥深くに響いた。
嫉妬するなどと…愚かだな、俺は。
しばらく見つめ合った後、何度も口付けを繰り返す。
俺に対する確かな想いを全て受け止める。
このまま閨へ行き搔き抱きたいーそう思った。
しかし迦羅は俺の手を取り、歩き出そうとする。
「そろそろ戻りますよ」
「何故戻る?」
少々ふてくされてみる。
「お花見のために皆に仕事するなって言ったんでしょう?」
それはそうだが、このやりきれぬ熱をどうしてくれる。
貴様への衝動を持て余していると言うのに。
そんな葛藤を見透かしたように迦羅は顔を近付け、囁く。
「…お花見が終わってからです」
自らの言葉に、恥ずかしさを隠しきれなくなっている。
俺はこの女には一生敵わん。
二人で花見の席へ戻る。
「陰でこそこそと、いやらしいですよ」
「ふん、大いに妬け」
肩が触れ合う程近くに迦羅を置き、また、呑み始めた。
完