第8章 迷走する恋情(織田信長/裏)
一方、内紛の制圧をすすめていた織田軍は、破竹の勢いでその衝突を諌めていた。
まさか信長自らが軍を率いて出てくるとは思いもしなかった傘下の内紛は、みるみるうちに収まっていった。
「しけたもんだったぜ」
つまらないとばかりに政宗は吐き捨てる。
「こちらは兵の損失もなく、良かったんじゃないですか」
家康は相変わらず冷めている。
「もう軍はひけますが、どうしますか?」
「今日は先の領地にある宿場町まで行く」
「わかりました」
その宿場町へ先に遣いをやり、一晩過ごすことにした。
町へつくと、一番大きな宿屋が織田軍のため部屋を空けていた。
広間に兵を集め、酒を振る舞う。
信長、家康、政宗は別室にいた。
信長は胡座をかいた膝に頬杖をつき、どこか遠い目をしている。
酒はすすんでいるものの、様子がおかしい。
「一体どうしたんです?」
「信長様が悩みごと、って感じでもないしな」
二人が不思議に思っていると、信長はぽつりと呟いた。
「俺は…悩んでいる」
二人は顔を見合わせ、何事かと思いながら次の言葉を待つ。
「政宗、貴様は惚れた女に拒絶されたらどうする」
なるほど、迦羅絡みか、と二人は察する。
「そうですねぇ、俺なら…二度と拒絶などできないほどに、してやりますかね」
ニヤリと笑う下戸の政宗は、料理を食べながら一人茶を飲む。
「それ、参考になるんですか?」
呆れたように家康も酒を飲む。
「俺は、何度迦羅を抱こうが一向に飽きん。全てが愛おしすぎて、満足せん。足りんのだ」
聞いている家康は赤くなりながら下を向く。
政宗だけが愉快そうに薄ら笑っている。
「迦羅は、抱かれるのが嫌だと?」
「いいや、言葉では言わん。だが、拒まれた」
「それなら、こちらもやり返してみては?」
親切か悪戯心か、政宗は信長にある提案をした。
ー惚れてる相手に触れたい、触れられたいってのは至極当然のこと。
それが急になくなれば、不安になり、必ず触れたくなる時は来る。それを待てばいい。まぁ、我慢は必要になりますけど。
他に策がない信長は、それに従ってみることにした。