第8章 迷走する恋情(織田信長/裏)
翌朝早く、制圧に向かう軍が整い、信長の号令とともに安土を出発した。
見送りを終えた私は、針子部屋で黙々と仕事をこなす。
予定通り仕事を終えた私は、自室でかちこちになった身体を伸ばした。頑張りすぎたかな。
久しぶりに城下へ行ってみようと思っていると、
「迦羅、いるかー?」
「あ、はい。どうぞ」
公務のため城に残っていた秀吉さんがやってきた。
「お仕事終わったんですか?」
「ああ、ひと段落したところだ」
秀吉さんは無意味に私の部屋へ訪ねてくる人ではない。
「それで、何か用でしたか?」
「実はな、信長様に頼まれたんだ。何だか迦羅の様子がおかしいから気にしてくれってな」
私の様子がおかしい?
あ、昨日の夜に調子が悪いと言ったからかな。
「悪いが体調の話ではないぞ?」
「え?…違うの?」
何で様子がおかしいなんて思ったんだろう。
何もした覚えはないけれど…。
理由がわからず顔をしかめていると、目の前の秀吉さんは何故か赤い顔をして困っている。
「秀吉さん?」
「怒らないで聞いてくれよ?」
そう言われてこくりと頷く。
「だからだな、その…迦羅は信長様に…だ、抱かれるのが嫌なのか?」
「はい?」
何で秀吉さんがそんなこと聞くのー!?
しかも真っ赤になって、しどろもどろになりながら。
「な、急に変なこと言わないでよ!」
「怒らないって言っただろう!」
お互いに恥ずかしくなって声が大きくなる。
しかし、秀吉さんはひと息つくと真面目な顔に戻り、続ける。
「興味本位で聞いてるわけじゃない」
そりゃそうでしょ、と心の中で思った。
「信長様は、本気で迦羅に惚れてるんだ。それはわかってるだろ?」
「う、うん」
「だがな、信長様は不安になってる。迦羅に触れることを拒絶されたと言って、それはもう死にそうな顔だった」
「えっ…そんな…」
「迦羅の中で何があったかは聞かない。だが、信長様の気持ちもわかってやってほしいんだ」
頼む、と言うと秀吉さんは部屋を出て行った。
そんなふうに感じていたなんて。
私は触れられるのが嫌なんじゃないの。本当は触れてほしい。
でも、信長様に溺れて、だんだんおかしくなっていくこの身体が怖いだけなの…。