第84章 お菓子な恋愛模様(真田幸村/甘め)
幸村ってばどうしたんだろう。
お菓子全部持って行っちゃうなんて。
パリッ…。
カサカサ。
パリッ…カサカサ…。
幸村の部屋の前へ来ると、中から何か音が聞こえた。
「ねぇ幸村、入るよ?」
声を掛けても返事は無かったけれど
静かにその襖を開けた。
「違うな、これも…違うよな」
襖を背にするようにして
座り込んだ幸村は一心に何かやっている。
「やっぱりおかしいんじゃねーのかこれ?」
まるで私に気が付いていない幸村。
「何してるの?」
「は?…あぁ、お前か」
幸村の前に回り込んで腰を下ろすと
一旦は私を見た幸村だったけれど
再び視線を落として、焼き菓子を割っていく。
無残に割られた焼き菓子と散らばる紙切れ—。
「やっぱりさっきの…良くない事でも書いてあったの?」
「…別にそうじゃねーけど」
「そっか…。」
やっぱり何だか様子のおかしい幸村。
でもさっき…顔、赤くなってたよね?
(きっと姫と同じようなことが書かれていたんだろう)
信玄様はそう言ったけど
もしかしたら本当にそうなのかも。
目の前の幸村の顔からは、先程の上気した色は消えていた。
ただ何かを確かめるように
黙々と菓子を割っては中の紙を一読し、ポイッとその辺りに落としている。
あらかたの菓子を割り終えた幸村が
大きな溜め息を吐き、肩を落とした。
「何やってんだろうな。ただのくだらねぇ菓子相手によ」
「うん、そうだよ」
そうは言ったものの、正直私は嬉しさを感じていたの。
誰かが面白おかしく作った占い菓子であっても
私や幸村が、お互いの事だと思って嬉しい気持ちになるのなら…。
でもやっぱり、こんなもので喜んでいる私は
まだまだ子供なのかも知れない。
何もかもを幸村との事だと
都合のいいように取ってしまう私は…。
「こんなの、気にすること無いよ!」
「まぁただの菓子だしな」
そう。幸村の言う通り。
何の根拠も無い、ただのお菓子なんだから。