第84章 お菓子な恋愛模様(真田幸村/甘め)
「人目も憚らずに何をしている」
「はぁー………」
私が声のしたほうを振り向くより先に
幸村が盛大なため息を吐き、うな垂れた。
「え?…謙信様?」
馬上から私たちを見下ろしていたのは
鍛錬に出掛けていた筈の謙信様。
その後ろには同じく馬に跨る佐助くん。
「やあ、迦羅さん」
「あの、どうして此処に?」
「近頃はろくに戦が無いせいか、どいつもこいつも鍛錬に身が入らん。早々に切り上げた所でお前たちの話を聞いたのだ」
「春日山から徒歩で来たって言うからね」
あ、成る程。
私と幸村を迎えに来てくれたってこと?
……って言うか見られてたよね。
いやいや、別に何も見られて困ることをしていた訳ではないけども。
「用が済んだのならば帰るぞ」
促されてふたりで立ち上がると
謙信様は馬上から私に手を差し出した。
そしてもう一方では佐助くんが幸村に。
「しれっとして迦羅を乗せんのかよ…」
「幸村、どうどう」
佐助くんに宥められながらも
幸村がヒョイっと馬の背に乗る。
私も謙信様に引き上げて貰い、馬に乗る。
何だか可笑しな光景だけど
長閑な田舎道を、春日山へと向かった。
「疲れているのではないか?」
「うーん…少しだけ」
「女がこの距離を良く歩いたものだ」
「でも楽しかったですよ」
「ほう。それは惚気か?」
「え?ち、違いますよ!」
時折、少し後ろから着いて来る幸村の刺さるような視線を感じながらも、春日山までの道程を、謙信様の馬に揺られた。
ゆっくりと走らせた馬だったけど
帰りはあっと言う間に時が過ぎた。