第84章 お菓子な恋愛模様(真田幸村/甘め)
パリッ——
菓子を噛み割ると
甘じょっぱい味が口に広がる。
「美味しいー!」
「あぁそうだな。でもよー、食いもんの中にこの邪魔な紙は何なんだよ…」
紙を口の端から出しながら
山羊みたいになってる幸村。
ふふっ、紙まで食べちゃいそう。
「ほら見て」
「ん?」
私が中から取り出した小さい紙を広げると、やっぱりおみくじみたいなものだった。
たった、ひと言だけ。
(恋祈願——必ずや叶う)
「わぁ…これはきっと大吉だね!」
「本当かよ」
「ねぇ幸村のは何て書いてあるの?」
「…ちょっと待てよ」
もぐもぐと器用に紙を出すと
幸村もそれを広げてみせる。
(想い人——すぐ近くにある)
ふと顔を上げると、同時に顔を上げたであろう幸村と目が合った。
心なしか頬が赤いような…。
私も幸村も、きっとこれがお互いのことだってわかったから。
「だ、大体同じこと書いてあんだろ!」
「えー、そんなこと無いと思うけど」
袋からもうひとつ取り出した幸村は
ひと口囓ると紙を取り出し広げた。
(縁談——良縁に恵まれる)
そしてまたひとつ。
(探し物——目の前にある)
「だあぁー!こんなんばっかかよ!」
「…幸村、嬉しくないの?」
「は?」
きっと照れてるだけだと思うけど
でも、その反応に少し戸惑う。
こんなおみくじひとつでも
嬉しいと思うのって私だけ?
全部幸村とのことだって都合のいいように取ってしまうのは、私だけなのかな…。
「ただのおみくじだもんね……」
何となく寂しくなって俯くと
ふわりと身体が包まれる。
鼻先に感じる幸村の男らしい匂い—。
「…嬉しくねー訳じゃねぇよ」
「だって…」
「こんなもん無くたって俺とお前はもう」
「もう何?」
其の先が聞きたくて顔を上げると
益々頬を赤くする幸村の顔がすぐ其処に。
「だからだな…」
「何?」
「だから、アレだよ」
「アレってどれ?」
言い淀む幸村に痺れが切れ始めて
問い詰めるように距離を縮める。
意識した訳じゃないけど
最早唇が触れそうな程に近かった。
と、観念したように肩の力を抜いた幸村が口を開きかけたその時。
耳慣れた声が背後から飛んだ——。