第84章 お菓子な恋愛模様(真田幸村/甘め)
隣町に着く頃にはもう
すっかり疲れ切ってしまった。
けれど、町にこだまする賑やかな声を耳にすれば、不思議と足が軽くなる。
「ねぇ幸村、あのお店何だろうね?」
「多分あそこだな。随分人が居るから」
「あれってお菓子屋さん?」
「ああ」
そこには若い女の子たちが
軒先に長い列を成している。
行列の最後尾に並ぶと
幸村は落ち着かない様子を見せた。
「どうしたの?」
「いや…こんな女ばっかのとこに混ざってると思うとよ…」
「私と一緒だから大丈夫だよ」
ふふっ。ちょっと恥ずかしがってる。
幸村ってこう言う所が可愛いんだよね。
でも意外だったなぁ。
幸村がデートでお菓子屋さんに連れて来てくれるなんて。
「何が良くて並んでんだろーな」
「え?幸村知ってるんじゃないの?」
「俺が知る訳ねぇだろ」
えぇっと……知らないの?
じゃあどうしてこんな遠い所まで…?
「おい、もうすぐだぞ」
「あ、うん」
どんどん列は進んで行き
中から出てくる女の子たちを見れば
袋に入った菓子を持っている。
何か皆楽しそうだけど、何のお菓子なんだろう?
「はいよ、次のお客さんどうぞ」
柔らかい笑みをみせるふくよかな女将さん。
台の上には、ふたつに折り畳まれた形の小さな焼き菓子がたくさん乗っている。
「えーっと、二十程くれ」
「はいよ!」
女将さんは手際良く袋に数を詰めると
にっこりとして私を見た。
「これは良く当たるからね」
「え?」
「毎度ありがとうね!」
詰め寄せるお客さんに押し出されて
勘定を終えた私と幸村は店の外に出て来た。
…当たるって、何が?
「此処は人が多いから向こうまで行くぞ」
幸村に手を引かれて
町の入り口まで戻って来た。
大きな木の木陰に腰を下ろすと
幸村は袋からひとつ、菓子を取り出す。
「気になるだろ?食ってみろよ」
「うん、ありがとう」
差し出された其れを受け取ると
畳まれた焼き菓子の間から、ほんの少しだけ白い紙の切れ端のような物が出ている。
あ…もしかしてこれって。
「おみくじクッキーみたいな物かな」
「くっきい…?何だそれ」
怪訝そうな顔をする幸村は
怪しい物でも見るように手元の菓子をじっと見ている。
「食べたらわかるよ」
「ふーん」