第1章 心の在処(織田信長/甘め)
二日後。
いよいよ信長様が制圧に発つ日だ。
夜が明けきらない頃に目を覚ました私は、頭が重く、身体が言うことをきかない。
「…風邪ひいちゃったかな」
ぼーっとする頭の中には信長様の顔が浮かぶ。
見送るつもりだったのに、起き上がれそうにもない身体に溜め息をついた。
朝陽が昇り始め、城の中が少し騒がしくなった頃、女中さんが部屋へやってきた。
見送りに現れるであろう私の姿が見えず、迎えに来たと言う。
「すみません、体調が優れなくて…」
まあ大変!と慌ただしく用意した手拭いを額にをあてがわれる。
ゆっくりと身体を休めるように言うと女中さんは出て行こうと襖に手を掛けた。
ーと同時に襖が開かれ、信長様が険しい顔で立っている。
女中さんは会釈をし、その場を去る。
表情を崩さずに信長様が布団の横に胡座をかく。
「何をしている」
何をしているって…相変わらず冷たいんだから。
「すみません…」
何とか身体を起こそうと力を入れるけど、うまくいかず重い身体が揺らぐ。
すかさず信長様が腕を伸ばし、私の身体を抱きとめた。
「あっ…」
厚い胸板に閉じ込められ、熱い頬が更に熱を上げた。
「こんな時に風邪をひくとは、貴様は馬鹿か」
言葉とは裏腹に優しく頬を撫でる。
顔をあげると、いつもと変わらない自信たっぷりの強い瞳とぶつかる。
照れくさくなって視線を逸らそうとするけれど、頬に当てられた大きな手がそれを許さない。
「どうか…気を付けて…」
鼓動を上げた心臓が苦しくて、言葉を絞り出す。
「では貴様にひとつ命を下す」
「??」
呆気にとられた私の耳元に唇を寄せると
「俺の心配をする暇があるなら自分の身体を労われ。そして俺が帰る時には、ちゃんと出迎えろ」
言い終わると耳元から唇を離し、勝気な顔で笑みを浮かべる。
「はい…。約束します」
出来るかぎりにっこり笑ってみせると、不意に唇を塞がれた。
「…んっっ」
思わず漏れた声に信長様は満足そうにニヤリと笑う。
「今のでまた熱が上がったな」
意地悪なひと言にかぁっと顔に火がついた。口元を尖らせ信長様の胸元を力なくトンと叩いた。