第83章 眩暈 〜memai〜(上杉謙信/微甘)
翌日ー
仕事が一区切りついたと言うのに佐助は一体何処へ行った。
ちょこまかと逃げ回るなどと。
今日こそはみっちりと鍛錬に付き合ってもらうぞ。
この間の戦では刀を振るい足りなかったからな。
佐助を探し城内を歩いていると、ふと庭に二つの人影を見た。
…迦羅か?
花壇に水遣りをする迦羅の傍には、昨日のあの家臣の姿ー。
ほう…何と仲睦まじい光景だ。
胸の奥が妙な音を立て始め、それに促されるようにひらりと庭へ下りる。
「迦羅様、昨晩は大変失礼なことを致しました」
「お酒が入っていたんですから、仕方ありません」
「しかし不愉快な思いをしたことでしょう。何とお詫びを…」
男が言葉を切った時、その喉元には白刃が光っていた。
「…っ!?」
「謙信様っ!!」
驚きに竦み上がった男は言葉を失くし、迦羅は悲鳴にも似た声を上げる。
「反省の色が見えんようだが」
「謙信様!落ち着いて下さい!」
「…俺は至極冷静だが?」
「この方は昨日のことを謝りに来て下さっただけなんです!」
「そう口実を作り会っていたのではないのか?」
「…そのような心積もりは御座いません!私は昨晩の無礼を詫びに…」
「謙信様っ!」
迦羅、お前のそのような顔は見たくない。
突き付けていた刀を下ろすとほっとしたような顔に変わった。
「次は無いぞ」
男を一瞥し、引き剝がすように迦羅の腕を掴んで庭を後にする。
俺の中には未だこんなにも黒く歪んだものがあるか…
迦羅と出逢い、人として幾分変わったような気がしていたが。
やはり生まれ持っての性か。
「あのっ、謙信様…何処に?」
「やはりお前を人目に晒して置くべきではないようだ」
「え?」
そうだ。
迦羅、お前は俺だけのものでなければならない。
俺だけがお前と言う存在に触れられれば、それで良いのだー。