第83章 眩暈 〜memai〜(上杉謙信/微甘)
隣で酌をする迦羅の姿を、先程から遠目に盗み見ている奴が居る。
あいつ…余程迦羅に気が有るようだな。
土下座して謝罪したはずの家臣は、やはり迦羅が気になるのかそわそわしながらも時折チラリとこちらに目を向けていた。
往生際の悪い奴め。
「謙信様、どうかしたんですか?」
…そうか。お前がこんなにも美しいからいけないのだ。
俺のみならず、見る者を惹きつけてしまう。
「お前は罪な女だな」
「え?」
どれ程に男の欲を掻き乱すか自覚の無いところがまた恐ろしい。
「…私は余所見なんかしません」
胡座をかいた膝の上に乗る俺の手を、横からキュッと握る。
なんといじらしい女なのだお前は。
目が合えば柔らかく微笑む。
こんなにも幸福と呼べるものがすぐ側にあるとは…。
「いつまで二人の世界に浸ってるんだ」
「俺たちも居るんですけど」
傍で呑む信玄と幸村が茶々を入れる。
「妬いているのか?お前たち」
「当たり前だろう。美しい天女をお前のような男に独り占めされたんじゃあ面白くない」
「だが迦羅は俺のものだ」
「迦羅、無理をすることはない。悪いことは言わないから俺にしておきなさい」
…こんな所にも往生際の悪い奴が居たか。
「あ、あの…私は謙信様がいいんです」
俺の手を握ったままの迦羅は、頬を染めながらも俺がいいとそう言った。
「こんなに可憐な天女を牢屋に入れるような男でもいいのか?」
「ふふっ、そんなことも有りましたね。でも、牢屋に入れられたとしても、私は謙信様が好きですから」
何だ?
急に胸のあたりが苦しくなったぞ。
牢屋か…懐かしいな。
確かあの時に初めてお前と心が通じ合った。
…牢屋に入れられても俺が好き…か。
トクン…トクン…トクンー