第83章 眩暈 〜memai〜(上杉謙信/微甘)
夜の春日山城。
城内の一角には、賑やかな声が響いている。
先の戦にて、圧倒的な強さを見せつけた上杉武田軍の勝利を祝した宴が繰り広げられていた。
皆が思い思いに呑み、勝利の余韻に浸っている。
女中たちは、あちらこちらの席へ移動し、家臣たちに酌をして回っていた。
迦羅も女中に混じり、その役目をしている。
迦羅が俺の女であることは皆の知るところ。
しかし、酔いの回った家臣の一人があろうことか迦羅を口説き始めたようだ。
「迦羅様、いかがでしょう是非一度二人きりでお話しを…」
「い、いえ申し訳ありませんが…」
「そう言わず、一度だけで良いのです!」
「困ります、…お気持ちだけで結構ですから」
迦羅の白い手を取り、甲をさすっている。
酒が入ったとは言え許せぬ行為だ。
「そこのお前」
上座から投げ掛けられた俺の声に、迦羅から視線を外したそいつは慌てて手を離す。
「俺に謀反を起こす気か?」
「い、い、いえ!とんでも御座いません!!」
「ならばその女は諦めろ」
「はっ!!何卒お許しをっ!」
畳に額が擦れる程の土下座をし、酔いも冷めたことだろう。
以前の俺ならば斬り捨てていたかもしれない。
惜しいことをしたか。
「迦羅。お前はもう此処へ来い」
やはり手元に置いておかねばならんな。
俺の側を離れるとろくなことが無いようだ。
「ありがとうございました」
助けてやったことに律儀に礼を告げる迦羅。
お前のそういう所も嫌いではない。
「おいそれと着いて行くなよ」
「私は謙信様にしか、着いて行きません」
「ならば良い」
迦羅の酌で呑む酒は、やはり一段と美味いな。