第81章 白銀ノ月 ー終ー(石田三成)
三成くんの隣でお酌をし、返杯され、ゆるりとした時間が過ぎて行く。
宴席の雰囲気に呑まれてか、三成くんは次々と杯を空にしていった。
そこへ、あの女の子が挨拶にやって来る。
「迦羅様、三成様、今日は本当にありがとう御座います」
「いいえ。おめでとう」
「祝言はひと月後でしたか、楽しみですね」
「はい。次は是非迦羅様たちも」
「えっ…!」
茶化すような可愛らしい微笑みを残し、また次の席へと移って行く。
「私たちのことを知っているのですか?」
「ううん、話してないよ」
「では見る人にはわかるのですね」
膝の上に置いた私の手を、そっと三成くんの綺麗な手が包む。
それはとても温かくて…。
コトリー
肩に重みを感じると、目を伏せた三成くんの頭が乗っていた。
「三成くん?」
「少しだけ…良いでしょう」
小さく呟く声に、疲れと眠気の色が見える。
そう言えば仕事から戻ったばかりだったね。
お疲れ様、三成くん。
時々チラリと見る皆の視線にほんのちょっとだけ照れくさいけど、こう言うのも悪くはない…かな。
刻々と時は過ぎ、明日の仕事を控えた女中さんや家臣の皆はそれぞれに挨拶を済ませて帰って行った。
……三成くん、本気で寝てる?
肩にもたれた頭が動くことはなく、規則正しい寝息ばかりが聞こえてくる。
やがて皆が去った広間には、いつもの武将たちだけになった。
「おいおい、お前らいつの間にそうなったんだ?」
さぞかし愉快そうな政宗。
こちらへつかつかとやって来た家康が、私に寄り掛かる三成くんを引き剥がした。
「いい加減起きなよ」
「んー…迦羅様もう少し…」
「何寝ぼけてるんだよ」
ブンブンと三成くんの上半身を揺さぶる家康。
「やだなぁ迦羅様…そんなに焦らなくても…わかってますから」
「な、何を??」
寝ぼけた三成くんが何を言っているのかと思うと、途端に恥ずかしくて頬が熱くなる。
すると三成くんは家康にガバッと抱き付いて頬を摺り寄せ始めた。
「誰にも渡しませんよー…迦羅様は」
「やめろっ…!気色の悪い…」
「ふふふっ」
「笑ってないで、何とかしてよね」
こんな二人のやり取りが何だか久しぶりで
私は暫く手を出さずにいた。