第81章 白銀ノ月 ー終ー(石田三成)
「何か、納得いかない」
「何が?」
「見たらわかるでしょ。この状況」
そう、家康様の言うこの状況とは
疲れと酔いで寝てしまった私を背におぶっている、まさにこの状況。
眠ってしまったのは本当なのですが、心地の良い揺れとお二人の話し声でつい先程目を覚ましたのです。
「だって信長様がああ言ったんだし…」
「朝まで広間に転がしとけば良かったんだ」
「もう、またそんなこと」
「あんただって、朝まで面倒見ろなんて言われて、大丈夫なわけ?」
「そ、それはっ…」
会話を弾ませるお二人の雰囲気に、起きたとも言えずにいました。
仕方が無いので家康様の背中で大人しく聞き耳を立てています。
「ねぇ、本当にこんな奴でいいの?」
「え?」
「…いや、何でもない」
あら?家康様。
私の寝ている間に誘惑はいけませんよ。
…と私が言うのも何ですけどね。
元はと言えば私の誘惑から始まったことですし。
僅かに目だけを動かして空を見上げれば、いつかのように白銀に輝く月が、少しだけ雲に隠れていました。
確かあの時、家康様は言いましたね。
迦羅様を泣かせるなと。
そして私は、約束は出来ないと思ったのです。
此れが私の初恋ー。
想う気持ちばかりが先走るものですから、自分でもどうしようも無い時があるのです。
例えば其れが迦羅様を傷付けてしまうこともあるでしょう。
ですが今なら、約束出来るかも知れません。
いえ、今度こそ約束しなければなりませんね。
決して迦羅様を泣かせはしないと。
「もうすぐ御殿だから、あとは任せるからね」
「あ、うん…」
そうでした。
御殿に帰り着けば、もう私は迦羅様と二人になるのですね。
……さて、どうしたものでしょう。
このまま朝まで寝たフリを続けたほうが良いのでしょうか…
それとも、この月夜に高鳴っていく鼓動に素直になったほうが良いのでしょうか…。
ふふ、此れは困ったものです。
穏やかだった私の中ではまた、良心と邪心との戦いが始まっていましたー。
完