第81章 白銀ノ月 ー終ー(石田三成)
「失礼します」
開け放たれた襖の前で声を掛けると、広間に会してくれた皆は一斉にこちらを見る。
…大丈夫かな?
ふと隣を見ると、凛とした表情の女の子。
ゆったりとした足取りで信長様の前へ行き、腰を下ろすと、深々と頭を下げた。
「本日はお忙しい中、私のような者の為にこのような祝いの席を設けて頂きまして、大変恐縮で御座います」
「堅苦しい挨拶は無しだ。皆、貴様を祝いたいと集まっただけのこと。今宵は存分に楽しめ」
「はい。ありがとう御座います」
上座から掛けられる信長様の声色はとても優しいものだった。
あれだけおろおろしていた姿は何処へやら。
女の子も皆に掛けられる祝いの声に
素直な笑顔で応えていた。
「迦羅、何を突っ立っている。酌でもしろ」
「え?あ、はい!」
いけない、つい安心しちゃって。
慌てて信長様の元へ行き、差し出された杯にお酌をする。
信長様はお酒を呑みながらも、あちこちで挨拶をしながらお酌して回る女の子を、まるで妹でも見るかのように眺めていた。
「信長様も嬉しいんですね」
「何がだ」
「あの子の嫁入りですよ」
「好いた者と一緒になろうと言うのだ、当然だろう」
「そうですね」
賑やかな雰囲気に包まれた広間は、とても平和で優しい光景だった。
「おい、そろそろ行け」
「え、何処に?」
「見ろ。包囲網を敷かれているぞ」
信長様の指差すほうを見ると、黄色い声を上げる女中さんに囲まれて笑顔の引きつっている三成くんが、チラチラとこちらを見ていた。
面白くないような、助けを求めるような。
「助けてやれ」
「ふふっ。じゃあ行って来ますね」
信長様の元を離れ、三成くんの側へ行くと、それまで三成くんを囲んでいた女中さんたちは、少し面白くないような顔をした。
…どうしようかな。
「あの、信長様のお酌をお願い出来ますか?」
「えっ、信長様の!?」
「あら私行くわ!」
「あらやだ私が行くわよ!!」
突然目の色を変えて我先にとこの場を離れる女中さん。
ほっとする三成くんと一緒に上座を見れば、突然押しかけた女中さんたちに気押されている信長がいた。
「ふふっ、上手くいった」
「なかなかやりますね。助かりましたよ」
「どういたしまして」