第81章 白銀ノ月 ー終ー(石田三成)
ー翌日ー
午後になると、城内は慌ただしく宴の準備に追われていた。
「ねぇ、本当にいいの?」
「何遠慮してるの。めでたい事だって信長様が言ってるんだからいいの」
ひと月後に祝言を控えた針子仲間の女の子。
自分のお祝いの席だと知ると、急に恐縮したのか、落ち着かない様子でそわそわし始めた。
「まだ始まってもいないんだから、そんなに緊張しないで?」
「無理です無理です!迦羅様助けて!」
「もー。祝言のほうが緊張するでしょうに」
「で、でもー!」
こんな調子で時間は過ぎ、やがて夕暮れ時になった。
……………………
そろそろ三成くんたちが帰って来るかも知れないと思って、城門まで出てみた。
暫く待っていると、向こうから二人の姿が近付いて来るのが見えた。
「三成くん、光秀さん、お帰りなさい」
「ほう、出迎えか」
「迦羅様、只今帰りました。ずっと待っていてくれたのですか?」
「そろそろかと思って」
「本当に可愛い人ですね」
優しく頬に触れる手と、意地悪じゃない優しい微笑み…。良かった。
今日はいつもの三成くんだ。
「見せつけてくれるなよ」
「あ、光秀さんを忘れていました」
「ククッ、お前と言う奴は」
取り敢えず信長様への報告を上げて来ると言う二人に、今日の宴のことを告げ、二人共出席するとのことだった。
針子部屋に戻った私は、あの子の着付けを手伝った。
豪華ではないけど、いつもと違う晴れ着を着せてみると、それは可憐な乙女へと変わる。
「うわぁ、すごく綺麗だよ!」
「迦羅様、何から何までありがとう御座いました」
「そんな、これでお別れみたいに言わないで」
「そうですね!お許しがあれば、私はまた皆さんに会いに来ますから」
この子からは幸せのオーラが滲み出ていて
何だか私まで幸せな気持ちになったの。
「おーい、こっちは準備出来てるぞー」
襖の外から秀吉さんの声が掛かり、カチコチになったこの子を連れて、私は広間へと向かった。
隣を歩く女の子は、そっと私の手を握る。
「大丈夫だから。ね?」
「迦羅様と一緒だと、不思議と安心出来ます」
花が咲いたような笑顔が
先程までの緊張が解けたことを感じさせた。