第81章 白銀ノ月 ー終ー(石田三成)
三成が城を出てから二日目。
この日早めに仕事を終え、御殿に戻ろうと廊下を歩いていると、縁側で夕涼みをする迦羅の姿が見えた。
陽暮れ間近の、まだ暑さの残る夕刻。
何処か遠くを見つめ、団扇をパタパタとさせている。
俺の足音に気が付いた迦羅は
ゆっくりとこちらを向いた。
「あ、家康。もう帰るの?」
「今日の仕事、終わったから」
「そっか。…少しだけ話せるかな?」
…きっとこの間のことかな。
俺も今なら、ちゃんと返事を聞ける。
そう思って迦羅の隣へと腰を下ろした。
「この間家康が私に言ってくれたこと、すごく嬉しかったの」
「うん」
少しの沈黙の後で、短く息を吐いた迦羅は言葉を続ける。
「だけど私…いつの間にか、三成くんのことが好きになったの」
「…そう」
「だからこれからも、友達で居てくれるかな?」
控えめな微笑みを見せる迦羅を前に、断れる筈が無かった。
たとえ俺の恋が叶わなくても、変に負い目を感じさせたい訳じゃないから。
「わかった」
「…ありがとう」
「でも、もしあいつに酷いことされたら、俺に言ってよ」
「酷いことって…」
「俺がコテンパンにやっつけてあげる」
「ふふっ、ありがとう」
本当は悔しいけど、ちゃんと二人を見守るって決めたんだ。
あんたが泣かないように
あんたが幸せになるように。
三成だって…きっとあんたが初めての恋なんだ。
俺が言うのも何だけど、不器用だし何考えてるかわかんないし、もしかしたらあんたを泣かせるかも知れない。
だけど、きっと仲良くやってよ。
そうでなきゃ…俺が、救われないから。
「明日の今頃には、帰って来るって」
「そうなの?教えてくれてありがとう」
「じゃあ、また明日」
「うん。また明日ね」
はぁ…。
俺っていつから、親切になったんだろ。