第80章 白銀ノ月 ー6ー(石田三成)
お茶屋の縁台に座る二人。
変に意識する訳じゃないけど、やっぱりその距離は近い。
三成くんに恋をした事をはっきりと自覚したせいか…トクトクと少し速まる鼓動を感じていた。
「昨日はすみませんでした」
そう切り出したのは三成くん。
私を見ることなく、手元の湯呑みに視線を落としている。
「…私のほうこそ、ごめん」
「何故迦羅様が謝るのです?嫌な思いをさせたのは私のほうなのですから」
「そうじゃないの」
「え?」
顔を上げる三成くんとすぐ其処で目が合う。
嫌な思いをしたとか、そう言うことじゃないの。
…ちゃんと言わなきゃ。
「昨日のは…いきなりだったし、人が居るってわかってたから動揺しちゃっただけ」
「ですが…」
「ああやって、ちょっと強引にでも三成くんに触れられるのが嫌な訳じゃないの」
「そう、なのですか……?」
「だって…好きな人に触れられるのって、嫌なことじゃないでしょう?」
言いながら、頬が熱くなっていくのがわかった。
そして目の前の三成くんは、僅かに目を見開かせている。
「私、三成くんのことが好きになっちゃったの」
「………」
「…三成くん?」
私を見つめたまま、三成くんは其処から動かなくなってしまった。
もしかしたら、嬉しくないのかな…。
複雑な気持ちが湧き上がって来た時
グイッと一気に顔を寄せられた。
「み、三成くん…近いっ…」
「二言はありませんね?」
「え?」
「迦羅様が好きなのは、間違い無く私なのですね?」
「は、はい!」
変な気迫に押され、声が裏返りそうになりながらも返事をする。
至近距離で見つめる時間がとても長く思えた。
…これは…心臓が持たないよ。
堪らずに視線を逸らそうかと思った瞬間、掠めるようにして三成くんの唇が私の唇に重なるー。
一瞬のことだったけど、熱を浮かせるには十分だった。
そしてまた意地悪そうに口の端を持ち上げた三成くん。
「嫌いじゃないのでしょう?こうして私に、強引にされるのが」
「なっ…!だからそれは人前ではだめって言ったじゃない!」
「では今度、続きは二人きりでゆっくりと」
ここで天使の笑顔を見せる三成くんに翻弄される予感がしながらも、私はすぐ隣に感じる温もりに、愛しさを覚えていた。