第79章 白銀ノ月 ー5ー(石田三成)
静かな書庫には、紙の擦れる音が響く。
私はまた読むでも無い書物を開き、持て余す手で捲っていた。
………。
私は迦羅様を傷付けたのでしょうか。
どうやら私は…
日に日に貴女への衝動が抑えられなくなっているのかも知れません。
(変な誤解をー)
貴女にとっては、それだけのことなのですね。
視線を落とし先程まで触れていた掌を見ても、其処にはもう何も残ってはいない。
実は私も少し、傷付いたのです。
いえ…
火が点いたとでも言うべきなのかも知れませんね。
あの日の返事は未だ無いまま。
私の想いを知りながら
はっきりとは拒絶しない貴女が…悪いのです。
「コホン」
戸の脇の壁に身を預けた光秀さんが、あのいつもの薄笑いを浮かべてこちらを見ていました。
「あら、いつの間にいらっしゃったんですか?」
「どうした」
「どうと言えばいいのかわかりませんね」
「ふっ、そうか。気分転換に仕事だ、三成」
「…はい」
こちらへ来た光秀さんは、何やら一通の文を広げました。
何か他のことを考えなければ
きっと私はまた、貴女のことをー。
……………………………
「一揆、ですか?」
「ああ。傘下のある国で度の過ぎた年貢の取り立てを行っている大名の元、苦を強いられている国民が一揆を起こしたらしい」
「それはまた耳の痛い話ですね」
次から次と、問題は底無し沼のように湧いてくるのですね。
信長様が身を粉にして平穏な世を作ろうとなさるのに、時代が追い着くのはまだ先のようです。
「御館様には既に報せてある」
「で、仕事と言うのはそれですか?」
「今のお前には、少し忙しい時間が必要だろう」
「と言いますと?」
「ふっ、察しろ」
………侮れませんね、この方は。
ですがその通りなのかも知れません。
私は少し、冷静になる必要がありそうです。