第78章 白銀ノ月 ー4ー(石田三成)
「…迦羅様」
何だか今日の三成くんはおかしい。
いや、それともそう思う私がおかしいの?
「迦羅様?」
…ううん、気のせいなんかじゃないよね。
絶対に何かがおかしい。
間違いなく三成くんは………
ドンッー
「わっ…!」
「何をぼんやりしているのですか?」
階段を降りきった所で、前に居た三成くんにぶつかってしまう。
というか……これは
すっぽりと腕の中に閉じ込められていた。
「あっ…ご、ごめん!」
「別に私は構いませんが」
薄く笑みを浮かべる三成くんはその腕を離す様子は無い。
こんな所人に見られたらっ…!
「あ、あのっ三成くん!」
「…一体何を考えていたんです?」
「え?別に何も…」
そうしているうちにも、廊下の向こうから人の話し声が聞こえて来た。家臣の人たちだろうか。
「三成くん、お願い離してっ!」
「見られるのは困りますか」
「それは困るでしょ!?変な誤解を…!」
思わず見上げた先で、その顔は笑みを消した。
「………」
な、何??
「なっ……んん…っ」
片腕がきつく腰を抱き、もう片腕が頭の後ろを押さえ付け、すぐそこに三成くんの纏う爽やかな香りを感じるー。
あの日初めて触れた時と同じ唇の感触。
だけど、それとは比べ物にならないくらいに深くて長い…口付け。
だ、だめだよ…三成くんっ!
「ん…、んん!」
次第に近付く話し声が耳に響き、必死に身体を押し返せばようやく唇が離される。
そして抱く腕を解かれた時、三成くんの身体越しに誰かの姿が見えた。
「あら、三成様。そのような所で何を?」
「落し物をしてしまいまして、ようやく見つけたところだったのです」
「そうでしたか、失礼しました」
何を疑うでも無い家臣の人は、軽く頭を下げるとすぐに去って行く。
「ひどいよ、三成くん」
途端に何だかわからない涙が溢れそうになった。
胸のドキドキが止まらないまま、逃げるようにその場を走り出す。
「ひどいのはどっちですか…」
そんな三成くんの呟きが聞こえた気がした。
部屋へ戻り襖を勢い良く閉めると
一気に涙が溢れ出て来る。
何が悲しい訳じゃない。
私を弄ぶような三成くんを拒絶出来ないのは
それが恋なのだと気付いた、苦しさなのかも知れない…。