第78章 白銀ノ月 ー4ー(石田三成)
「迦羅様、怪我をされたのですか?」
「ちょっとした擦り傷だから平気だよ」
「……家康様の軟膏もありますしね」
「え?…うん」
心配そうに私の手元を覗き込んだ三成くんだったけど、すぐにもう片方の手に握られた薬の入れ物をじっと見つめた。
「あの、どうかした?」
「迦羅様は、家康様から随分大事に思われているのですね」
それを見つめている三成くんの目が、ぞくりとする程に、冷たい。
何…?
大事にって…今までだって家康が軟膏をくれることなんか幾らでもあったのに。
今日に限ってどうしてそんな風に言うの?
何だろう。家康も三成くんも、よそよそしい気がしてならない。
普段の噛み合わない二人とも違う
何か、急に変な溝が出来たみたいに。
暫くそうした後、散らばった書物を集め終えると積み上がったその殆どを抱え、三冊だけ私に手渡された。
「すみませんが此れだけ迦羅様にお願いします」
「あ、うん。ごめんね三成くん」
「さあ信長様に届けるんでしょう?」
私の不安を他所に、何事も無かったように微笑みを取り戻した三成くんと共に、天主へと上がった。
「信長様、お届けものです」
「何だ、貴様ら二人で来たのか」
「こんなに重い物を、迦羅様ひとりに運ばせられませんよ」
「それは悪かった。迦羅が来るとは思わなかったのでな」
「また南蛮から仕入れたのですか?」
「ああ」
「こちらに置きますね」
「御苦労だった」
用件を終え、天主を出ようとする私に信長様の声が掛かる。
「迦羅」
「はい?」
振り向いた私と三成くんを交互に見る信長様は、やがて何でも無いと言うように首を小さく横に振る。
「いや、良い」
「じゃあ失礼します」
何か言いたそうだったけど…変な信長様。
そしてまた、先に階段を降りて行く三成くんの背中を見つめながら、私は不思議な気持ちを感じている。
怖い、とでも言うべきなのか…
いつもの三成くんが、次第に遠くなっていくような…良くわからないそんな感覚をー。