第78章 白銀ノ月 ー4ー(石田三成)
あぁーもう、重い…っ!!
信長様のところへ届けて欲しいと頼まれた新しい書物。
紐で括られたそれは大層積み重なり、とにかく重い。
「…なんっでこんなに…多いのかなぁ」
両手で持つ紐が指に食い込む程にずっしりとしたそれを何とか持ち上げ、天主への階段を上がった時だった。
「あれ、迦羅?」
「えっ?」
背後から掛けられた声に振り返ろうとして、重い書物にバランスを崩してしまった。
「きゃあっっ!!」
あっ、ダメだっ!落ちる………っ!!
ドターーーーンッ!
階段から落ちる大きな衝撃を身体に感じたものの…
「いたたた…」
落ちた身体の下に、畳とは別の感触がある。
瞑っていた目を開けると、私が乗り上げるように下敷きにしていたのは、家康の身体だった。
「…平気?」
「あぁ!?ご、ごめん!」
慌てて身体を起こすと、私を支えるようにして家康も身体を起こした。
「ごめん、急に声掛けたから」
「いいの!怪我しなかった?」
「俺は何とも無いから」
下に転がった書物は見事に括っていた紐が切れ、あたりに散乱している。
拾うために手を伸ばすと、横から家康の手が私の手をパッと掴んだ。
「ん?何?」
「何って、切れてる、ここ」
「えっ?」
良く見れば、先程まで紐を握っていた指に、擦り切れたような薄い傷が出来ていた。
痛みも感じないし、別に大したことないはないのに、何故か家康はとても申し訳無さそうな顔をして、私の傷をじっと見つめていた。
「薬、あるから」
そう言って家康が懐から小さくて綺麗な入れ物を出した時だった。
パタパタパタパター
廊下の奥から慌ただしい足音が近付き
やって来たのは三成くん。
「どうかしましたか?何だか大きな音がしましたがっ…」
「あ、三成くん。大丈夫だよ!私が勝手に転んでしまっただけなの」
「…そうですか?」
三成くんは私の側に居る家康を一瞥すると
すぐに散らばった書物を集めてくれた。
それを見ている家康の表情が曇っていくのがわかる。
「…………」
「あの、家康のお陰で助かったよ、ありがとう」
「…これ、使って。傷に効くから」
先程取り出した綺麗な入れ物を私の手に持たせると、曇った表情を変えることなく、家康がその場から去って行った。