第77章 白銀ノ月 ー3ー(石田三成)
天主から下りて来た後で、全身の力が抜けたような気がした。
本当にあの人は
何でもお見通しって感じ。
…結果が伴わない後悔よりも、か。
そんなこと、わかってるつもりだったけど…。
本当に、わかってるつもりだったのかも。
幾分気落ちした足取りで廊下を歩いて行くと
角に差し掛かった時に誰かとぶつかった。
「っぶね、何だよ家康かよ」
「何だ…政宗さんか」
「お?どうした、そんな死にそうな顔して」
…またそうやって。
死にそうな顔なんか、してないから。
ケラケラと笑う政宗さんに腹立たしさを覚え、無言で通り過ぎようとしたけど、掛けられた一言で足が止まる。
「原因はあれなんだろ?」
振り向けば政宗さんが僅かに複雑そうな顔をして一方を指している。
「何?」
追いかけた視線の先にあったのは
縁側の端に並んで座る、三成と迦羅の姿。
「…………。」
何か書物を読んでいるのだろう。
三成の膝の上に開いたものを、迦羅が覗き込むようにして見ている。
…それだけのこと。
迦羅は人懐こい子だから、誰とでも分け隔て無く仲良くやってる。
別に深い意味など無いのかも知れない。
隣に居るのが、三成だとしてもー。
そんな気持ちとはまた裏腹にして、陽だまりに包まれた二人の姿が、ひどく胸に焦りを募らせた。
だけど…俺は其れを受け入れたくない。
「別に、いいんじゃないですか」
「本当にいいのかよ?」
「俺は別に……」
それ以上言葉を続ければ何が口を突いて出るかわからない。
そう感じた俺は話を切り上げ
不満そうな政宗さんの元を離れた。
何も見なかったと、自分に言い聞かせながら。