第76章 白銀ノ月 ー2ー(石田三成)
城へ戻り、針子部屋で仲間と一緒に注文の着物を仕立てている。
先の納品を終えたばかりで、今日の針子部屋に慌ただしさはない。
それぞれが余裕を持って仕事をしていた。
「そう言えば迦羅様、この子、嫁入りすることになったんですよ」
「えっ!?そうなの?」
「…はい。幼馴染の方の元へ」
「うわぁ、おめでとう!」
「ありがとう御座います、迦羅様」
私よりも年端の若い女の子。
幸せそうに頬を染めた姿がとても可愛いらしい。
「あんなに嫌だって言っていたのに、わからないものだねぇ」
「そ、それは昔の話ですから」
年配のお針子さんが可笑しそうに言うと、女の子はますます頬を染めてしまった。
「どうして嫌だったの?」
「昔、他に想いを寄せていた方がいたのです。それを告げても、あの方はしつこく私に言い寄って来たものですから…」
「それだけ好きだったんだね」
「それが何年も続くうちに、その一途な所に惹かれてしまいました」
「素敵なお話じゃない!きっと幸せになるよ」
「ふふ、そうだといいです」
一途に想ってくれる幼馴染かぁ。
そう言うの、憧れちゃうな…。
でも、こんな幸せそうな姿を見ていると、何だか私までお裾分けしてもらった気分かも。
「迦羅様、あなたもうかうかしていられませんよ」
「え?私?」
「当たり前じゃありませんか!器量良しの迦羅様がいつまでも嫁入りしないなんて」
「いや、私はまだそう言う…」
「そんな事を言っていると、あっと言う間に行き遅れですからね!」
い、行き遅れ?
さすがに年配の方だけあって迫力が…。
「私だっていつかは立派な花嫁に…」
「うふふ、おばあちゃんになる前にお願いしますね」
茶化すような言い方に針子仲間たちはくすくすと笑っていた。
行き遅れなんて言われると不安になるけど、そう簡単に嫁入りなんて出来る事じゃないもの。
だって私…
恋ですら行き悩んでいるのに。
まだまだ縁のない話だもの。
「まだ祝言の日取りは決まっていませんが、是非迦羅様にも来て頂きたいのです」
「もちろんだよ!」
「そうね、皆でお祝いしましょう」
幸せな空気に包まれた針子部屋。
穏やかな春の陽射しのような温かさが、其処にはあった。