第76章 白銀ノ月 ー2ー(石田三成)
「待って下さい迦羅様」
御殿を出て少しした所へ、三成くんが私を追って来た。
「私も城へ戻るので、一緒に宜しいですか?」
「あ、うん」
「ふふ、良かったです」
「…そ、そうだね。一緒に帰ろう」
ああぁーもう!
何で上手く喋れないのかなぁ…
三成くんに嫌な思いをさせたくないのに。
こうしてただ一緒に歩いているだけなのに、私がおかしいの?
変に意識してるのは私だけなのかな…?
三成くんはあの時の事…
どう思っているんだろう。
「迦羅様、昨日は嫌な思いをさせましたか?」
「え!?」
足を止めた三成くんに隣から真っ直ぐな目を向けられる。
その目はとても、不安そうで。
「今朝から少し、迦羅様の様子がおかしいので。やはり私のせいかと思いまして…」
「ち、違うの三成くん!嫌だったとか…そんなんじゃないの。だからっ…」
「ではこれまで通りに接して下さいますか?」
「うん」
「迦羅様に距離を置かれては、私も寂しいですから」
困ったように笑うその顔を見たら
変に気にしていた自分が申し訳なくなって
少しだけ、勝手に感じていたおかしな緊張感から解放されたような気がした。
並んで歩く城下。
二人の間を通り抜ける風が心地良い。
ふと、隣の三成くんが急に足を止めて後ろを振り返った。
「どうかしたの?」
「ふっ…。いえ、何でもありません」
「??」
何だか笑ったような気がしたけど…。
再び歩き出すと、そっと感触の良い手が私の手に重なった。
指先を握るだけの控えめな感覚…
トクン、トクンー
意識することを忘れた筈の胸の奥から
また、甘い熱が蘇る。
「嫌だったら、そう言って下さいね」
「う、うん…」
勝手に鳴る鼓動、熱を持つ頬。
嫌だとは思わないこの気持ちー。
もしかしたら私、本当はもう…三成くんのことを…。
そんな思いが湧き上がって来る中、指先の淡い温度に浮かされて歩いて行く。
「…………。」
通りの後ろから
まさか家康が私たちを見ていたとも知らずに…。