第75章 白銀ノ月 ー1ー(石田三成)
いつの間にか落ちた微睡みの中
それは鮮やかな色彩の夢を見ました。
季節は春でしょうか…?
辺り一面が白に薄桃に、嵐のように花弁が降り注いでは宙を舞っているー。
袖を引かれる感覚にふと顔を向けると
隣で微笑む貴女が居るのです。
何かを語るように唇が動くのですが、生憎その声を聞くことができません。
ですが、何ものとも比べ難い貴女のその笑顔を見れば、声など無くとも良いのです。
私の隣に居る。
それだけで今は満足なのかもしれませんね。
こんなにも淡く美しい色彩にも負けない貴女と言う存在が、私は愛しくて堪らなく好きなのです。
パッと私の手を離した貴女は先に駆けて行きます。
空いた距離がもどかしく
この手を伸ばしますが届きはしません。
私が何か言葉を掛けたのでしょう。
その足を止めて振り向いた貴女はまたにっこりと微笑みました。
貴女の声は聞こえないのに
まるで別れでも告げられたような
…そんな気がしてならないのです。
何処へも行かないで下さい。
更に伸ばした手は空を切り、何も掴むことが出来ません。
そうしてまた視界を遮る数多の花弁が舞い…貴女と共に、世の中の色が消えたのです。
「…迦羅様」
自身の声に目を覚ますと、私は文机に頬杖をついたままの格好でした。
先程まで其処にあった月の輪郭が
いつの間にか居なくなっている。
「……夢と言うものは、残酷ですね」
其れがただの夢と知りながらも
私の手をすり抜けて行く生々しい感覚があったのです。
「何処へも行かないで下さいね、迦羅様…」
焦がれる心がそう口をつき
そして私はまた、誘われるままに目を閉じたのです。