第74章 月花の誘惑(石田三成/甘め)
…まったく、迦羅様は困った人です。
仕事中だと言うのにこっちまで集中出来ないじゃないですか。
そんなに可愛らしい顔で見つめられては、いくら私でも理性が持ちませんよ?
ですが今は我慢の時ですね。
貴女が家康様に恋心を持っていることは、何となく見ていてわかりますから。
とは言え、今のように私を見て頬を染めるようでは、何を勘違いしてもおかしくはありません。
迦羅様は一体、私をどのように思っているのでしょうか。
無自覚に男心を煽っているとすれば
これ程たちの悪いことはありませんが。
私は迦羅様にも、家康様にも、幸せになって欲しいとは思います。ですが…二人がくっつくことは喜ばしくありません。
生憎と私も、迦羅様に恋をしていますからね。
いえ、恋などと可愛らしいものではないのかもしれません。
「さあ、ここまででいいでしょう」
「え、もう終わったの?」
「ええ。手伝い、助かりましたよ」
「…そっか」
そんな残念そうな顔をして…
本当に私を困らせるつもりなのですか?
ずっと貴女を独り占めしていたいのですが、そうもいきません。
公私混同は良くありませんからね。
…そう言い聞かせなければ、恐らく離しては差し上げられなくなるでしょう。
「迦羅様もご自分の仕事があるでしょう。さあ戻っていいですよ」
「うん、わかった」
腰を上げた迦羅様が、軽やかに部屋から出て行きました。
ほの甘い残り香が漂い、少し寂しさを感じます。
此処を去った貴女は、その足で家康様の姿を探すのでしょうか?
私の知らない所で、家康様を想うのでしょうか?
恋の心苦しさと言うのは、このようなものなのですね…。
本当に貴女と言う人は、厄介なものを私に教えてくれましたね。