第74章 月花の誘惑(石田三成/甘め)
「迦羅様、真面目にやって下さいね」
「え?あ、ごめん!」
実は私、三成くんにお手伝いを頼まれて、硯の墨を擦ったり指定された書物のページを開いたりしてるんだけど…
眼鏡姿の三成くん…ちょっと格好いいな。
真面目な顔で筆を滑らせる三成くんに見とれてしまって、さっきから手元が定かではなかった。
眼鏡姿だって初めて見る訳じゃないのに。
こうして隣で見ていたら、何だか勝手に胸がドキドキして、簡単な作業すらおぼつかなくなってしまっている。
いやいや、何を考えているんだろう。
だって私は…家康のことが好きなんだもん。
もちろん家康には好きだなんて伝えてないけど、私が恋してるのは、家康なの。
なのに三成くんにドキドキするなんて…。
私、一体何考えてるんだろう。
「次はその書物の三十二貢を」
「うん、わかった」
ページを広げて三成くんの前に差し出すと、不意に手首をやんわりと掴まれる。
「あっ…」
「どうしました?集中が足りないようですね」
ニコリと微笑む三成くんだけど…目が笑ってない。
「ご、ごめんなさい三成くん!」
「あんまり男を見つめると、誘っているように見えますよ?」
「えぇっ!?違うよっ!」
「冗談です」
掴んでいた手首を離して、あの爽やかな笑顔を見せる。
じょ、冗談??
三成くんて可愛い顔して、たまに心臓に悪いこと言うんだから…。
こういうの、ギャップ萌えって言うのかな?
「構って欲しいなら、後にして下さいね」
「あ、いや…そう言う訳では!」
「ふふ、面白い人ですね」
最初の頃は、三成くんて奥手な人なのかと思っていたけど、こうしてみると意外とそうでもないみたい。
まさか三成くんにまでからかわれるなんて…。
光秀さんにも良く言われるけど、私ってよっぽどからかい甲斐があるのかな。
なんか複雑…。
でも、何だろう。
家康のことを考える時とはまた違う、このドキドキ。
ダメだって思うのに…どうしたんだろう。