第66章 天邪鬼な子守唄 −6−(徳川家康)
「迦羅っ!!」
何処に行ったの?ねぇ、何処に居るの?
「迦羅!……迦羅…っ!!」
近くは全て探したけど、この場所には既にもう居ない。
…あいつらだ。
あいつらが迦羅を何処かに—。
何処でもいい。
兎に角迦羅を探してあげなきゃ。
不安で力が抜けそうな足を踏み出した時—
「家康様!」
向こうから走って来るのは三成。
「はぁっ…家康様、先程これが城に」
差し出されたのは、三成が握り締めて来たせいかヨレヨレになった紙切れ。
(女の命が惜しくば徳川家康を差し出せ)
たったひと言そう書いてあるだけの
汚い、お粗末な脅迫状。
「迦羅様は?」
「一緒だった。…さっきまでは」
こうして話している時間も勿体無くて、探しに行こうと三成に背を向ける。
でも、咄嗟に三成の手が、痛いくらいに俺の腕を掴んでいたんだ。
「駄目です、家康様」
「お前に駄目だなんて言われる覚えは無いよ」
「忘れたのですか?あの時のことを」
…何を言いたいの?
前に俺が、今川の残党に捕まった時の話?
俺の腕を掴む手はいよいよ力が込められた。
「あの時、家康様のあのようなお姿を見て、迦羅様が傷付いたことをお忘れですか?」
「あれはあれ。今回は違…」
「行かせませんよ。おひとりでは」
今まで見たことが無いくらいの、意思を含んだ三成の目。
「…っ!わかったよ。さっさと戻って信長様に報告する」
「はい。ではすぐに参りましょう」
「そうだ、あいつら引き摺ってくの手伝って」
さっき倒した奴ら、斬ったけど殺しちゃいない。
聞きたいことも出来たし。
まだ、死なせてやらないから。