第65章 天邪鬼な子守唄 −5−(徳川家康)
「ほら、早くしなよ」
「待ってよー!」
着替える為に一旦御殿に戻って、そこを出た頃には既に陽が真上に昇ってた。
行き先が遠い訳じゃ無いから、別にいいけど。
いつもと変わらない城下を二人で歩く。
今はもう、こうして手を繋いで歩くのだって、照れくさいと思わなくなったんだ。
恥ずかしいことじゃ無いって、そう思うから。
「それにしても、寝過ぎ」
「家康だって寝てたくせに…」
「俺は付き合ってあげてただけ」
「えー!?何それー!!」
本当、何でもすぐ真に受けるんだから。
そんなやり取りをしているうちに、城下を抜けてあの野原に辿り着いた。
天気が良くて、少し風があって、ここへ来るのに丁度いい日で良かった。
「わぁー、久しぶりだね!」
先へ駆けて行った迦羅は、辺りをぐるっと見回した後で、俺のほうに振り返る。
陽射しを受けたその姿がすごく綺麗で
急に胸の辺りがぎゅーっとなった。
迦羅の隣に並んでこの景色を見ていたら、これまであった色んなことが、不思議と思い出された。
「ねぇ家康、覚えてる?」
「何を?」
「初めてここに来た時のこと」
「…まぁね」
あれはあんたが安土に来て、俺の御殿に預けられてた時だったよね。
最初はすごく嫌いで、鬱陶しくて、でも何かほっとけないって思い始めてた頃。
あんたとのことは、全部覚えてる。
「私はね、全部覚えてるよ」
…そう。俺も一緒だから、安心して。
笑顔を見せる迦羅につられて、自然と微笑みが浮かぶ。
穏やかな日常の中で
こうしてあんたと寝転がって、同じ空を見て。
昨日の夢と同じ。
現実でも夢の中でも、いつでも俺は、あんたのこと…見てるから。