第62章 天邪鬼な子守唄 −2−(徳川家康)
その日の仕事を無事に終え、今日も針子部屋で皆一緒に夕餉を摂った。
こうして歳の近い女の子たちと過ごすのは賑やかで楽しい。
普段は仕事仲間としてだから
余計なお喋りは出来ないけど。
仕事終わりでただの女友達みたいになると、色んな話題が出てお喋りが尽きない。
年配の方も居るけど、まるでお母さんみたいで皆優しいし。
夕餉も終えようかと言う時、突然家康の話題に擦り変わった。
「ところで迦羅様、家康様って実際にどんな方なんです?」
「え?どんな?」
「私たちは普段の、その…素っ気ないお姿しか見ていませんから…」
申し訳無さそうにも興味津々と言った感じで、次々と身を乗り出して来る女の子たち。
「確かに素っ気ないけど、本当はとても優しい人、かな」
「えぇ?そうなんですか!?」
「そうよ、きっと迦羅様にしか見せない顔があるんだわ!」
「そ、そうかな?あはは…」
何となく興味を持ってくれるのは嬉しいけど
何を何処まで話していいのか。
「それでどんなところが優しいんですかっ?」
「甘やかして下さったりするんですか??」
「それは…っ」
ここぞとばかりに踏み込んで来る皆に
悪い気はしないけど、照れくさくて返答に困ってしまう。
ガラッー
私たちは開いた襖を一斉に振り返る。
「迦羅、居る?」
噂をすれば何とやら。
顔を覗かせたのは家康だった。
それまでわいわい騒いでいた女の子たちも、急に姿勢を正して口をつぐんだ。
「家康、どうしたの?」
「仕事終わったから、一緒に帰ろうと思って」
「あ、待って!此処を片付けたら…」
既に済ませた夕餉の膳を下げようとすると、周りの皆がそれを取り上げるように慌てて動き出す。
「ここは任せて!ほら、迦羅様!」
「折角家康様がお迎えに来て下さったんですから、先にお帰りになって下さい」
「でも…っ」
「はいはいお待たせしちゃ駄目よ!」
押されるまま家康の前に差し出されて、微笑ましく見送られる。
「悪いけど、お願いするよ」
家康が皆にそう声を掛けると
騒つくような黄色い声が上がった。
…皆わかりやすいんだから。
「ありがとう。また明日」