第62章 天邪鬼な子守唄 −2−(徳川家康)
「んー……!」
気怠さが残ったまま、夢の淵から醒めた身体を思い切り伸ばす。
寝返りをうつと、そこに家康は居ない。
「あれ、家康?」
まだ眠い目を擦りながら起きてみれば
外はもうすっかり陽が昇っていた。
「ああ!寝坊しちゃった!?」
布団から這い出し、慌てて着替えをしていると、枕元に置かれた一枚の紙が目に入った。
「ん…?」
(随分疲れてるみたいだから、起こさないで先に行くね。ちゃんと顔、洗って出て来なよ)
…家康……。
「って、えぇー!何で起こしてくれないの!」
疲れてるみたいだって…
誰のせいだと思ってるの。
そう思いながらも、家康の残してくれた一枚の置き手紙に、とても心が温かくなった。
寝坊したことも頭の片隅に追いやられて
足取り軽く、城に向かう。
針子部屋に向かう途中、ゆったりと廊下を歩く信長様と出会う。
「あ、おはよう御座います。信長様」
「何だ、さては寝坊か?」
「え?あっ…すみません!」
「ふっ、構わん。素直でいい」
何のお咎めも無しに、笑う信長様はそのまま通り過ぎて行く。
…普通なら怒られるところだよね。
ひと足もふた足も遅れて針子部屋に出勤した私を、皆は嫌な顔もせずに迎えてくれた。
「本当にすみません、寝坊するなんて…」
「たまにはいいじゃありませんか。いつも一所懸命働いて下さってるんですから」
「ふふふっ、迦羅様もお疲れなんですよ」
「ありがとう、皆」
それから私は遅れを取り戻すようにひたすら針を動かし、黙々と着物を縫い付けていった。
仕事は仕事。
明日からはきちんとしなくちゃ。