第57章 戦国狂想曲3幕(家康VS政宗/共通)
「家康様、手が止まっているようですが?」
「ああ」
「何か心配事ですか?」
「ああ」
「成る程、迦羅様のことですね」
「ああ。……っ、お前、五月蝿いんだけど」
皆それぞれ仕事に戻った後、俺と三成は各自領地に送る書状をしたためていた。
三成に指摘された通り、俺の筆はさっきから進んでない。
気をとり直して文字を書き始めるけど
やっぱりさっきの話が頭から離れないんだ。
…別にあの子が誰と会っていようと勝手だけど、よりにも寄って若い男だなんて。
そりゃあ城下に友達くらい居るのかも知れないけどさ。
何で、男なのかな…。
「ふふっ、やはり気になるんですね」
「お前があんな話、するからだろ」
「たまたま目に留まったんですよ。何だか良い雰囲気だったものですから」
「……………」
俺は精一杯の睨みを効かせて三成を見た。
お前…余計なこと言わないでくれる?
何が良い雰囲気でした、だよ。
お前はそれで終わらせられるから、平気で言うんだろうけど。
何か、面白くないんだ。
胸の辺りが、モヤモヤするみたいに。
「仕事も手に着かない程気になるようでしたら、行ってみたらどうです?」
「何処に行けって言うんだよ」
「ですから、城下ですよ。迦羅様はまだ帰らないようですよ?」
「…そう」
こいつに諭されるのは何か気に入らない…
今はちゃんと自分の仕事しよう。
気持ちを入れ替え、改めて筆に墨を含ませる。
書状の続きを書き始める俺に、また横から三成の声が邪魔をした。
「ですがあれは、本当に仲睦まじいものでした。迦羅様にもいい人が出来たのでしょうかね、家康様?」
「…………」
三成、お前…何なの?
俺に仕事させたくない訳?
「あ!政宗様あたりが、今頃偵察に出ているかも知れませんね」
……わかったよ。行けばいいんだろ。
立ち上がった俺に、三成はわざとらしくキョトンとして見せる。
「用事思い出したから、出掛けて来る」
「そうですか。行ってらっしゃい」
静かに部屋を出て行くと、閉めた襖の向こうからは、三成の笑い声が聞こえた。
「ふふっ。素直じゃないんですから」