第56章 戦国狂想曲2幕②(光秀ルート)
軒先から見上げる空は、薄い雲に覆われて先程の月が見えなくなっている。
「さっきは何を言いかけた?」
「え?」
「花のことだ。桔梗が好きになったと」
「それは…光秀さんと初めて見た花だからです」
「ほう。可愛いことを言うものだ」
何か箍が外れたように、俺の手は素直に迦羅へと伸びて行く。
雨で冷えた頬だが、俺が触れるとまた熱を持ち始めた。
「それは、何か意味が含まれているのか?」
「ふふっ、…想像にお任せします」
何処かで聞いたような言葉だな。
あれは確か俺がお前を助けた時に言ったものだ。
頬を包まれながら、照れくさそうに瞼を伏せる迦羅への想いは…俺の一線を越えてしまったようだな。
もっと触れたい
もっとお前を感じたい
そう言葉にしては言ってやらぬが…
お前が本気で拒絶しない以上、止められないぞ。
いや、拒絶されたところで、この俺の心が燃え上がるばかりだがな。
「この神社には、もう一つ有る」
「まだ何かあるんですか?」
「ああ。実はな、縁結びの神とやらがいるらしい」
「縁結び!?」
「女はそう言うものも好きだろう?」
「確かにそうですね。好きだと思いますよ」
「試しにお願いしてみたらどうだ?」
少しからかうつもりでそう言ったが、目の前の迦羅は真っ直ぐに俺を見つめている。
「悪い、頼む相手も居ないのでは仕方が無い」
「それくらい居ますよ…」
睫毛を伏せた迦羅は、消え入りそうな声で続けた。
「神頼みしなくたって、もう目の前に…」
そして再び睫毛を持ち上げれば、どこまでも澄んだ清らかな目が迷い無く俺を捕らえて離さない。
「お前と言う奴は…本当にいい子だ」
「光秀さんは、どうなんですか?」
「俺はな、意地悪するのもこうして甘やかすのも、お前だけだ」
言葉を聞き終えた迦羅が、花開くようにそれは可憐な笑顔を見せた。
俺はお前のその笑顔が一番好きなのだ。
「この先一生、俺に意地悪をされながら愛される覚悟があるか?」
「はい。意地悪も嫌いじゃないですけど、でももっと…甘やかして欲しいです」
「ほう…。ではお前の言う通りに、嫌と言う程に甘やかしてやろう」
互いの想いが通じ合った時
細やかに降り注いだ雨が止んだ。