第56章 戦国狂想曲2幕②(光秀ルート)
「あ、雨止みましたよ!」
嬉しそうにまた桔梗のほうへ駆けて行く。
余程桔梗が気に入ったのか?
俺は迦羅の隣へ立ち止まると、その細い腰に腕を回した。
「桔梗もいいが、今は俺を見ろ」
「光秀さん…」
「甘やかして欲しいんだろう?」
俺の腕に抱かれて向き合う迦羅は、ますます頬を赤くして顔を上げようとしない。
お前が望んだのだ、もっと甘やかせとな。
望むものならこの先幾らでも与えてやろう。
下を向く迦羅の顎を捕らえて顔を上げ、俺しか映ってはいないその目をじっと見つめた。
「迦羅。どうして欲しい?」
「そ、それを私に聞くんですかっ?」
「言えぬならこのままだぞ」
「……そんなの嫌です」
「ほら、素直に言ってみろ」
俺の着物の襟をぎゅっと握り締めた迦羅は、戸惑いながらもゆっくりと口を開いた。
「光秀さんの…口付けが欲しいです」
「言えたな。奇遇だが、俺もお前が欲しい」
吐息の掛かる距離で囁いた後
俺は初めて迦羅の柔らかな唇を奪った。
もう止められない愛しさが溢れ出し、それを愛する者へと注ぎ込むように口付けを繰り返す。
「…っん」
漏れる甘い声に、普段の冷静さなどとっくに無くなっていたが、それ以上を求める心に何とか抗った。
「もう遅いな。そろそろ帰るぞ」
「はい。…あぁっ!」
迦羅の手を握り歩き出そうとすると
ぬかるみに足を取られて鼻緒が切れてしまったようだ。
「やはりお前は手のかかる女だ」
「う…ごめんなさい」
「仕方が無い、また甘やかしてやろう」
「え?」
「ちゃんと掴まっていろ」
迦羅の身体を横抱きに持ち上げ、帰路につく。
静かに抱かれている迦羅からは、理性を掻き乱す程の甘い香りが……
「城へは帰らんぞ」
「えぇっ?」
「夜は未だ長い。うんと甘やかしてやろう」
「で、でも光秀さん…」
「今宵の俺はどうかしているようだ。嫌と言う程にお前を愛したい…一晩中眠れない覚悟をしておけよ」
「…うん」
「ふっ、可愛い奴だ」
お前が俺に溺れ、俺がお前に溺れ
恋だの愛だのと言うものに
二人で何処までも沈んで行くのも悪くない。
なぁ、迦羅。
完