第56章 戦国狂想曲2幕②(光秀ルート)
「はぁー…着きましたね光秀さん」
「もうバテているのか?」
「当たり前じゃないですかー…」
迦羅が息を整えるのを待ち、境内に歩み入る。
一見ただの神社なのだが、ここにはお前に見せたいものがあるのだ。
「ほら、こっちだ」
手を差し出すと、迷うこと無くその手が重なる。
この僅かな間に、間違い無く俺と迦羅の距離は近付いていた。
そう思うのが俺ばかりで無いことを、願うがな。
境内の一角には、鮮やかな紫色を付けた見事な桔梗が数え切れない程に咲いている。
「わぁ…こんなにたくさんの桔梗が咲いているなんて」
「綺麗なものだろう?」
「はい!すごい数ですね、素敵ですよ!」
やっといつものあの笑顔が戻って来たな。
女は花が好きだと言うからな。
「何の花を好きかは知らないが、桔梗も悪くないだろう?」
「はい。私、桔梗が好きになりました」
「何故だ?」
「だって光秀さんとこうして…」
迦羅がそう言いかけた時、通り雨だろうか?
突然空から細かな雨が降り注いで来た。
「あ、雨」
「濡れてしまうぞ、ほら」
叩き付けるような雨では無いものの、濡れてしまっては風邪を引くかも知れない。
俺は迦羅の身体を守るようにして、神社の軒先に駆け込んだ。
「折角綺麗なお花が見られたのに…」
ひどく残念そうな声を出す迦羅だが、俺には天の恵みかも知れないな。
こうして愛しいお前が腕の中に居るのだ。
「通り雨らしいな。少し座っていろ」
「はい」
腰を下ろして隣を見れば、頭や顔、肩が濡れてしまっていた。
取り出した手拭いで丁寧に拭ってやる。
「み、光秀さん…自分でやりますからっ」
「照れている場合か。風邪を引いては困るだろう」
「でも何か、落ち着かなくって…」
言いたいことは良くわかる。
俺がお前の世話を焼くなど気味が悪いと言いたいんだろう?
拭い終えると、今度は迦羅の手が伸ばされて俺の頭に触れている。
「何をしている」
「風邪を引いて困るのは光秀さんも一緒ですよ」
どうやら自分の手拭いで、濡れた俺を拭いてくれているらしい。
…今宵の俺は、どうかしているようだ。
俺はお前のことが……心底愛おしくてー。