第56章 戦国狂想曲2幕②(光秀ルート)
仕事を終えて迦羅を迎えに行った頃には、すっかり夜になっていた。
ちゃんと支度をして待っていたお前は
文句も言わずにこうして着いて来た。
「光秀さん、こんな時間に何処に行くんですか?」
「心配するな。城下を出はしない」
「ふーん」
予定よりも遅くなったが…
この月夜ならば大丈夫だろう。
城下の通りには、面した家々から漏れる灯りだけで、人の通りは無い。
静かな夜には、俺たちの足音と虫の聲ばかり。
ー突然、路地から黒猫が飛び出して来た。
「きゃああっ!!」
驚いた迦羅は咄嗟に俺の腕にしがみ付く。
そしてそれが猫だとわかると、ふーっと深いため息を吐いた。
「…あ。ご、ごめんなさい!」
慌てて身体を離す迦羅だが、俺は小さな手を逃してはやらなかった。
「あ、あのー光秀さん?手を…」
「お前がくっついて来たんだろう?」
「いや…あれは不可抗力と言うか」
「ならばこれも、その不可抗力だと思うがいい」
迦羅はそれ以上何も言わなかったが、ふと隣を見下ろせばその頬が僅かに染まっているのがわかる。
嫌がるでも無く繋いだ手もそのまま。
俺はお前のそう言う素直なところが好きだ。
「光秀さん」
「どうした?」
「…ありがとう」
控え目にきゅっと握られる手が、俺に胸の奥に堪らない愛しさを覚えさせる。
迦羅。
後になって、これが俺の勘違いであったなどとは…思わせるなよ。
やがて城下の中頃、辺りは鬱蒼とした大木が並び、上へと続く長い石段の前に着く。
「ここですか?」
「ああ、この上だ」
「これ、神社…ですよね」
「そうだが、怖いのか?」
「神聖な場所って、夜になると何だか少し怖いですね」
石段の遥か上を見上げる迦羅は、少しばかり不安そうな顔をしていた。
「何が怖いことがある。俺が居るだろう」
「あ、そうでした」
今頃思い出したかのように笑う迦羅の手をしっかりと握り、長い長い石段をゆっくりと昇って行った。