第55章 戦国狂想曲2幕①(秀吉ルート)
掌に包む頬は、次第に熱を持つようだった。
この陽気のせいなのか、それとも…。
「ひ、秀吉さん!少し暑くなってきちゃった!」
「ああ、そう言えばそうだな」
俺の可笑しな空気を感じ取ったのか、迦羅はそれを変えるような声を上げる。
確かにこのままだと迦羅の具合いが悪くなってしまいそうだ。
手を離すと先に小走りで松の木に向かう迦羅を追いかけた。
日陰に入った迦羅は俺に背を向けたまま。
さっきの俺の言葉に
また気を悪くしたのだろうか…?
振り返ることの無いその表情はわからない。
だけど俺はもう、この気持ちを止められなくなっていた。
背を向けるその身体を、思い切り抱き締めるー。
「もしも嫌なら振り解いてくれて構わない。そうでないなら…このまま居させてくれないか」
ずるい言い方だとは思うが
出来れば振り解いて欲しくない。
そんな気持ちがどうかお前に伝わって欲しいと願うからか、抱き締める腕には自然と力がこもった。
「…秀吉さんて、ずるい大人だね」
「そうだな。でも俺だって、子供みたいに駄々をこねたい時もある」
「ふふっ」
「いいのか?このままで」
「だって振り解けないもん。私は、秀吉さんが好きだから」
回した俺の腕に、迦羅の手がそっと重ねられた。
(秀吉さんが好き)
…こんなに幸せだと思うことが有るだろうか。
恋をした二つの気持ちが通い、こんなに近くに感じるその温もり。
急に顔が見たくなって、くるりと迦羅の身体をこちらに向かせると…赤くした頬で恥ずかしそうに笑っている。
「私、大人になるのはやめるね」
「は?」
「大人になると困るんでしょ?秀吉さんが」
「ああ。惚れた女の心配も出来ないんじゃ、俺は生きていけないからな」
「ふふふっ、大袈裟だよ」
「迦羅、俺はお前を愛してるー。」
「私も同じだよ?秀吉さん」
俺を見上げる愛らしい笑顔が堪らなくて
柔くその身体を木の幹に押し付けた。
「秀吉さん…」
「一生離してやらないからな、迦羅」
大事なものに印を付けるように、愛を注ぐように、初めての口付けを交わした。
こんなに暑い夏の陽をも忘れるくらい
長くて幸せな口付けをー。
完