第55章 戦国狂想曲2幕①(秀吉ルート)
迦羅と二人で乗る馬の背から
青々とした眩しい景色が広がる。
「暑くないか?」
「ううん、風があって気持ちいいよ」
「そうだな」
城を出てから、幾らか口数の増えた迦羅にほっとしている。
外に出たことで、少しは気分を和らげてくれたのかも知れない。
馬に揺られること暫くして
俺たちは湖の畔にやって来た。
陽射しは強いが、照らされた水面が輝くように光を映し、眩しい程だった。
「うわぁ…」
「なかなか良いもんだろ?」
「うん。すごく綺麗だね」
「ほら、暑いからこっち来い」
迦羅の手を引き大きな松の木の日陰に腰を下ろす。
傍らでは木に繋いだ馬が、草をむしゃむしゃと食べている。
「秀吉さんありがとう、連れて来てくれて」
多分迦羅は、俺が罪滅ぼしの為に此処にお前を連れて来たと思っているんだろう。
確かにそれも無い訳じゃないが…
俺はこうしてお前と過ごす時間が欲しかったんだ。
迦羅は草を食べる馬の額を撫でながら、さっきまでは無かった微笑みを溢す。
「その顔が好きなんだ」
「え?」
心の中で言ったつもりがどうやら声に出ていたらしい。
こっちを見て聞き返す迦羅と目が合った途端、ものすごく恥ずかしいような気がして来た。
…い、いや今のは!
「何か言った?」
「……いや別に」
聞こえてはいなかったらしい。
ほっとしたような、少し残念なような。
「ねぇ、秀吉さん」
「どうした?」
「私、もう少し大人になるね」
…ん?何だよ急に。大人になる?
「もう十分大人だろ?」
「そうじゃなくって…秀吉さんに迷惑とか心配とか、そう言うの掛けないようになりたいの」
すっと立ち上がった迦羅は日陰を出て、湖のほうを眺めている。
俺に背を向けたまま、言葉を続けた。
「私だって、いつまでも秀吉さんの優しさに甘えている訳にはいかないもの」
「俺は別に迷惑だなんて思ったこと無いぞ?」
「私が嫌なのっ!」
突然そんなことを言い出した迦羅に
俺は少し困惑している。
いや、少しなんてもんじゃない。
どうしてか…妙な不安みたいなものが胸を覆っていったんだ。