第54章 戦国狂想曲2幕(秀吉VS光秀/共通)
襟首が掴まれ、勢い良く後ろに引き摺り倒される男。
「…っくそ!何だてめえは!!」
「助けに来るのが秀吉ばかりだと思うなよ」
飄々と現れたのは光秀さんだった。
口元は薄笑っているけど、男を見下ろす目は堪らなく恐ろしい。
「光秀さん…」
「迦羅、忠告を聞かなかったな?」
「そ、それは…」
「おい!ひ、秀吉だの光秀だのっ…一体何なんだよこの女は!」
男たちは血相を変えて逃げ腰になっている。
光秀さんはそれ以上何をするでも無く、涼やかな顔で男たちに目を配った。
「俺の物に手を出すとどうなるか知っているのか?」
え?…俺の物って…。
「ど、どうしようってんだ!?」
「その身で思い知るといい」
光秀さんが腰の刀に手を掛けると、血の気を失った男たちは一目散に逃げて行く。
しかし、光秀さんはそれを追い掛けるでも無く、ひとつため息を吐いた。
「あ、あの、光秀さん」
「お前はそんなに言うことが聞けないのか」
「………」
「昨日と言い今日と言い、世話を焼かせるのも大概にしろ」
確かに私は大人しくしていろって言う光秀さんの言葉を無視した。
だけどそれは……。
駄目だ。ここで言い訳するのはやめよう。
「兎に角城へ戻るぞ」
有無を言わせぬ雰囲気に少し臆する。
それに…今頃になって身体の震えが来て
帰る為の一歩が踏み出せない。
「おい。何をしている」
「…………」
私が震えている事に気が付いたのか、光秀さんがそっと背中を撫でてくれた。
「落ち着け。もう大丈夫だ」
「はい…」
少しの間そうしてくれる光秀さんは
いつも何処か遠くに感じていた存在を、私に近付けた。
こんな風に優しい一面に触れた私は…どうしてか勝手に涙が出る。
「泣く程怖かったのか?」
「ううっ、別に…怖くなんか…」
口振りは相変わらずだけど、背中に感じる光秀さんの掌は、とても…とても優しいものだった。
「お前を見つけられて良かった」
「え?」
「お前に万が一のことがあれば俺は…」
「何ですか?」
「ふっ、その先は想像に任せよう」
「…何ですか、それ」
浮かべる薄笑みもいつまと違って見える。
そんな風に言われたら、私は勝手なこと想像しちゃうじゃない…。
そんなの、困るでしょ?光秀さん…。