第54章 戦国狂想曲2幕(秀吉VS光秀/共通)
午後になって、台所番の手伝いで城下へとお遣いにやって来た。
「何だか今日は随分人が多いんですね」
「ええ、今日は半年に一度の特別な市なんですよ」
「特別な?」
「安土はこの辺りで一番流通が栄えているから、年に二度、各地から大勢集まってこうして市を開いているの」
「だから今日は普段よりも行商さんがたくさん居るんですね」
お店の人が親切に教えてくれる。
まだまだ知らないことがたくさん。
でもこうして少しずつ、安土のことを知っていくのがとても嬉しい。
ひと通り予定していた買い物を済ませ、人混みの中を城へ戻る途中だった。
ドンッー。
「きゃっ…!」
大柄な男性にぶつかられて、持っていた荷物を道に落としてしまう。
慌てて拾い上げていると、上から声が降る。
「ああ?何処見て歩いてんだ!」
「…すみません」」
「ったくこれだから女ってのは鈍臭ぇ」
「でもぶつかって来たのはそっちじゃない」
あまりに横柄な態度の男に頭に来た私は、つい言い返してしまった。
睨みを効かせた男が一歩前に出て顔を寄せる。
「女ってのはな、黙ってしおらしく言う事聞いてりゃいいんだよ。わかったか?」
「わかりません」
「何だと?」
「今のは悪いのはあなたです。男とか女とか関係なく、まず謝るべきなんじゃないですか」
「男にたてつくとはろくな教育されてねぇな」
ますます睨みを効かせる男が、私へとその手を伸ばした時ー
「いい加減にしろ」
横から伸びて来た手が、パッとその腕を掴み上げた。
男は苦痛に歪んだ顔を見せる。
「女に手を出す気なのか?」
「何だよてめぇは!!」
「…秀吉さんっ!」
秀吉と言う名を聞いた男はみるみるうちに顔色を変え、掴まれていた腕を強引に引き離した。
ひとつ唾を吐き捨て、逃げるようにその場を去って行く。
「秀吉さん、ありがとう」
「こんな無茶な真似はするな。怪我でもしたらどうするんだ」
「…ごめんなさい」
「ほら、早く帰るぞ」
私から荷物を取り上げた秀吉さんは、空いているほうの手で私の手をしっかりと握った。
怒られた後だと言うのに…
手を繋いで人混みの中を守るように歩いてくれる秀吉さんに、私の心は甘く悲鳴を上げた。