第53章 七月七日、七夕の願い(安土勢)
ふう…。
信長様に抱えられて広間に入った時のあの視線は痛かった…。
信長様はケロッとしているけど、私は恥ずかしくて顔から火が出るかと思ったのに。
もう、今日の皆、少しおかしいんじゃない?
「迦羅、ここへ来て酌をしろ」
「あ、はい!」
信長様に呼ばれ、隣に座りお酌をする。
お酒が入っているせいか、広間はとても賑やかに盛り上がっていた。
「おーい迦羅、こっち来てどんどん食えよ」
「いいえ迦羅様は私の所に来るんですよね?」
「…何でお前なんだよ。引っ込んでなよね」
「おいおい喧嘩するな」
「俺の元へ来れば存分に酔わせてやろう」
「おい光秀、やめろ」
ふふっ、皆何だか楽しそう。
私もこんな賑やかな七夕は初めてかも。
「貴様も今宵は少し呑め」
「あ、ありがとうございます」
杯を受け取り、心地良く染みるお酒を頂く。
そうしてあちこちに移動し、お酌をしてはお酌をされ、ふわふわとした心地の中で宴は幕を閉じた。
その後、私は皆と一緒に庭へ出る。
綺麗な夜空だけど、月明かりがあるせいか天の川は見えなかった。
「…残念だなぁ、天の川が見えないなんて」
「そればかりは仕方の無いことだ」
「そうですね。でもきっと、織姫と彦星は会えているんだろうから…」
「ああ、きっとな」
夜空を眺めているうちに、お酒の入った私の瞼は重くなる。
もっと見ていたいけど、ちょっと限界かも…。
「私、先に休みますね」
「迦羅、一人で戻れるか?」
「ふふっ、大丈夫」
「ゆっくり休めよ」
「うん。おやすみなさい」
庭に武将たちを残し、私はひとり、部屋へ向かった。
短冊に何を書いたかなど、すっかりと忘れて…。